三井でみつけて

縄文人に想いを馳せて……「はけ」で感じる縄文ライフ

縄文に関するライフワークを暮らしに取り入れる

2018年夏、東京都世田谷区三軒茶屋から東京都小金井市へと引っ越した廣川慶明さん、草刈朋子さんカップル。都心から郊外へ移る際、一般的な動機としては「広い家に住みたい」「静かな環境で暮らしたい」などが思い浮かびます。しかし2人はまったく別の動機――ライフワークがきっかけで引っ越しを決断しました。

2009年、縄文のNPOへの参加をきっかけに縄文時代の文化に触れるようなったという草刈さん。廣川さんは、縄文時代をテーマとした野外フェスティバルに、カメラマンとして関わったことがきっかけで、縄文時代の文化に惹かれていきます。やがて2人はライフワークとして縄文探求ユニット『縄と矢じり』という活動を始めます。旅をしながら縄文時代の遺跡を巡ると同時にワークショップなどを開催。縄文時代に興味を持つ人たちにさまざまな文化、アートなどを紹介するようになったそうです。そして、生活の中に“採集”や“交換”などの縄文時代の考え方を取り入れていきます。

「自分たちはこれまで何年も縄文を探求してきて、今後もその魅力を伝えていきたいと思っています。それなら住む場所からも縄文を感じ、より深く縄文時代に関わってみようという結論に達しました」(廣川さん)

こだわったのは“地形”と“遺跡”!?

2人が住まい探しでこだわったのは“地形”と“遺跡”。東京の武蔵野台地には、旧石器・縄文時代から続く高低差のある崖線が残っています。“はけ”とも呼ばれる崖線には、地面下の岩盤に遮られて地中深くにしみ込まない水が、湧水として出ている場所がいくつもあるそう。縄文人はこのような場所で暮らしていたそうで、実際に縄文遺跡の分布図を見ると、都内でも崖線に沿っていくつもの遺跡が出土していると言います。

近所には「はけの小路」と呼ばれる湧水の流れる遊歩道も

住まい探しをする際の条件として、普通は“駅近”や“近くにコンビニがある”などが挙げられます。しかし2人は不動産屋に、“はけ”や“湧水”“縄文遺跡”が近くにあることを物件の条件として伝えたそうです。

「不動産屋さんには、このエリアなら何丁目何番地付近で、この道沿いがいいとピンポイントで伝えていましたからね。担当の人はかなり戸惑ったと思いますよ」(草刈さん)

駅から遠くて坂も多い……それが最高の住まい!?

苦労の末、見つけたのは国分寺崖線の高台に立つ賃貸マンション。間取りは3LDKです。

「下水道が発達した現代ではあまり影響ありませんが、縄文時代は水害を避けるために高台の上に住居を構えるのがセオリー。その意味でも高台の上に立つこのマンションはピッタリでした」(草刈さん)

「部屋は2階ですが、高台の端にあるので玄関を出ると遠く府中の街や富士山まで見渡せます。ベランダからははけの緑地が間近に見える。この森では夜になるとフクロウが鳴いていたりするんですよ。すごく気持ちのいい部屋です」(廣川さん)

ベランダの奥に見えるのがフクロウも生息するというはけ沿いに広がる緑地

“地形”と“遺跡”にこだわって探したマンションは、駅から徒歩15分ほど、近隣には急な坂も多くあります。“駅近”や“道が平坦”という人気の条件とは真逆の物件ですが、視点を変えたことで2人にとって最高の住まいとなりました。

「三軒茶屋は流行の先端が溢れる街で店も多く、よく夜中まで呑んでいたりしていました。でも今は付近にお店がないので、呑み歩かなくなりましたね。仕事の後は(わざわざ最寄駅の)一つ先の駅で降りてはけを下り、森の中を歩き、はけを上る。地形を感じながらの散歩は、大地とのつながりがあってとても心地いいです。昨年夏にここに引っ越してから10kgほど痩せました(笑)。近所には農家の直売所もあり、野菜やキウイフルーツが安く手に入ります。スーパーマーケットだと生産者の顔まではなかなか分かりませんが、ここなら自分が食べるものをつくった人とコミュニケーションがとれる。これも僕らが大切にしたい実感の一つだと思います」(廣川さん)

縄文探求で感じる人や自然とのつながり

2人の住まいを見渡すと、本棚には縄文に関する資料や土偶が並び、流木や石がインテリアのひとつとして飾られています。縄文探求で全国を旅する際に、訪れた場所で見つけたものを集めディスプレイしているそう。

リビングの本棚には縄文関係の書籍がズラリ

「縄文は狩猟と採集の文化。今はお金を出せばなんでも手に入りますが、こういうものは自ら訪れた場所で偶然出会わなければ手に入りません。石や貝などの自然物に興味を向けるのも、縄文というライフスタイルの醍醐味の一つだと感じています」(草刈さん)

平成から令和に変わった今年のゴールデンウイークは西日本を周遊。隠岐の島では国立公園のエリア外にある黒曜石の露頭を訪れて、地面に落ちている採集可能な小さなカケラを採集してきたそう。草刈さんは、これを縄文の魅力を伝えるアクセサリー作りのワークショップで使う予定と言います。

各地で採集しているという石。左下が隠岐の島で採掘したという黒曜石

「今回は広めの部屋を借りることができたので、一部屋をゲストルームにしました。僕らの縄文旅はキャンプの他、地元の知人の家に泊めてもらうこともあります。でもいつもお世話になってばかりでは申し訳ない。ゲストルームをつくったことで、お世話になった人に『東京に来るときは遠慮なく声をかけて』と言えるようになりました。お互い気兼ねなく行き来できる人脈を増やすのもおもしろいですよ」(廣川さん)

人とは違う独自の視点で住まいを選んだことで、今まで感じることができなかった心地良さを暮らしに取り入れることができた廣川さん、草刈さんカップル。人や自然との関係が希薄な現代社会において、縄文時代にあった濃厚なつながりを大切にし、自分らしく生きる。都心ではなかなか体験できない、素敵なライフスタイルがそこにはありました。

(トップイメージ/greenz.jp 協力/津南町教育委員会)

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