三井でみつけて

季節を感じる日本家屋と着物生活で得られる心の豊かさ

365日着物で暮らし、着物の良さを伝えていく

東京都港区で「木下着物研究所」を営む木下勝博さん・紅子さん夫妻は、築20年の日本家屋でほぼ24時間365日和服で暮らす「着物生活」を送っています。

着物生活を送るきっかけは20年ほど前に着物メーカーに転職したこと。その会社で小売事業の立ち上げ責任者となったことから毎日着物を着る日々を過ごすようになります。

「着物はトレンドがあまりないため長く着用できるんです。また、男性で着物を着ている人は少ないので、自分のことを覚えてもらいやすくなったんですよ。飲食店に3回も行けば常連扱いされるなんてこともありましたね(笑)」

そう勝博さんは話します。一方の紅子さんも、「日常生活で夫婦の片方だけが着物というのもおかしい」と考え、夫婦で着物生活を送るようになりました。

24時間365日和服で暮らす木下勝博さん・紅子さん夫妻

約5年前に独立し、「木下着物研究所」を立ち上げて着物や和のライフスタイルを提案する暮らしを始めた木下さんご夫婦。着物で生活することについて紅子さんはこう話します。

「着物は日常生活する上で不便だと思われるかもしれませんが、台所仕事には割烹着、床拭きや掃除には水屋袴などと使い分ければ不都合はありません。昔の人もこれで生活していたわけですからね。それから、着物は寒いと思われがちですが、羽織やストールで防寒すれば案外寒くないもので、よく考えられてると思います」

加えて勝博さんは着物に懸ける想いを話してくれました。

「われわれは『木下着物研究所』として、さまざまなケースで着物の便利さや不便さを自身で実感し、『こうしたらもっと良くなる』『こういうコーディネートもある』という提案をしています。そうやって、着物を皆が“気軽に着られるもの”にしていきたいんです」

“豊かな時間”が過ごせる日本家屋で、理にかなった生活を

自らが着物で生活するようになって改めて気が付いたのは、着物、ひいては和服のしつらえと日本家屋の構造は「日本の風土の理にかなっている」ということでした。

「着物で生活をしていると、和服は湿気の多い日本の気候に適しているということに改めて気付きます。洋服の襟や袖が閉じているのは乾燥した地域で湿気を保つための工夫で、湿気の多いところには合わないんです。一方で和服は、襟も袖も大きく開いていて、通気性が良い。この違いはかなり大きいと思います。また、これは日本家屋でも同じことがいえます。日本家屋は空間を区切って空気の層をつくっているので、小さな暖房器具で暖かくできます。夏場は区切りをなくして開け放せば風が通るので、湿気があってもそこまで不快になりません。着物を着て日本家屋で生活していると、衣食住すべてがしっかり日本の風土の理にかなってできているんだなと感じますね」

木下さんご夫妻が今の家に引っ越したのは約4年半前ですが、その前も日本家屋に暮らしており、和の暮らしを続ける上ではやはり日本家屋の方が便利なのだといいます

「着物生活で一番困るのは取っ手です。仕事の関係で一時的に洋風の家に住んでいたこともあり、よく袖口を引っ掛けてしまっていたんですが、この家は取っ手が一つもないので袖口を引っ掛けることもなくなりました。それに今の家には畳の部屋がありますが、着物を畳むのには広いスペースを取りやすく便利です」

そう笑顔で紅子さんは話します。勝博さんも「和室は客間にも寝室にもダイニングにもなるし、夏は寝っ転がっても気持ちがいい」と和室の良さを実感しています。今の家に住んでいて大変なことは毎日の部屋の拭き掃除や外の落ち葉掃きくらいで、それほど不便は感じていないそうです。そして、その掃除も面倒ばかりではないといいます。

「落ち葉掃きもそうですが、日本家屋で生活するようになって季節を意識することが多くなりました。床の間もその一つで、床の間があると季節の軸や花を飾りたくなります。これも手間といえば手間ですが、そうやって季節のことを考えることで生活が豊かになると感じています。

季節に合わせて暮らすことは心や体に良い作用をもたらします。暦に合わせた習慣、菖蒲湯や七草粥などは、その季節に起きがちな体の不調を和らげる効果がありますし、旬のものを食べるのも体にいいといわれますよね。住環境も実はそうで、古い日本家屋は内と外の温度差が小さく、その方が体への負担が小さいともいわれているんです」

取っ手がなく、着物で過ごしやすい空間になっているリビング

古い日本家屋の隙間風も、実は内外の温度差を小さくする効果があると勝博さん。季節や暦に合わせて生活することで心身の健康がはかられると話します。

木下さん夫妻はそういった和の知恵を暮らしの豊かさにつなげることを目指して活動をしています。中でもゆっくり時間を使うことを“豊かな時間”と呼び、とても大切にしているそうです。

「“豊かな時間”というのは、人によっては煎茶を一杯淹れることかもしれないし、コーヒーかもしれないし、お出汁を取ることかもしれない。私はいまお出汁からとってご飯を作り食べると心の豊かさが違うと感じます」と紅子さん。

「昔の様式に戻れと言っているわけではなくて、便利な新しいものを取り入れながら、圧縮できた時間を手間のかかるものに使っていけばバランスが取れるんじゃないかと考えているんです。お金は時間を圧縮することに使って、その時間で豊かさを手に入れるような。私は茶道に価値や面白さを感じるんですが、それもお金を出したらすぐに身に付くものではないことも理由なのかもしれません」

全てを最新のものや便利なものにするのではなく、自分の価値観に合わせた暮らしをすることが大切だということでしょうか。住まいも同様で、自分の価値観にあった住まいなのか、“豊かな時間”が過ごせるような住まいなのか、そういった観点からもよく検討してみると良いかもしれませんね。

和の知恵に基づいた暮らしでおもてなしを

便利な新しいものを取り入れながら、和の知恵に基づいた豊かな暮らしを提案する木下さん夫妻が、これからやってみたいことは何か、最後に勝博さんに聞いてみました。

「すでに実験でやっているのですが、友人を呼んで簡単な“茶事”をやることです。茶事というのはお食事をした後にお抹茶を飲む伝統的な茶会で、本格的にやると4時間くらいかかるものです。それを簡単にして、友人を招いて食事し、最後にお茶を出すようなことをやりたいなと。言うなれば“おもてなし”ですよね。準備は楽ではないですが、感謝の気持ちを伝える手段として最適だと思ってやっています」

趣味の茶道も夫婦二人で楽しんでいるそう

「着物を着て生活すると人生が変わる」という考えのもと、古き良き日本の生活を現代に。時代にとらわれない生き方を謳歌するご夫婦からは心の豊かさが溢れ出ているようでした。

自分の価値観にあった住まい探しを

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