三井でみつけて

伝統文化を重んじて。自然な暮らしを現代アートとともに

夫を亡くし、失意の心を埋めてくれた「現代アート」

18年間テレビ局に勤め、番組やイベントの制作に関わっていた石鍋博子さん。足立区に建つ現在の住まいは、昭和8年に建てられた日本家屋。昭和30年に玄関、昭和60年に二階部分と、世代を経るたび増改築を重ねてきた家には、石鍋さんがコレクションした大量の現代アートが飾られています。

「現代アートに初めて触れたのは2005年、スペイン・マドリードで開催されたアートフェアでのことでした。会場に並ぶ繊細で美しい作品の数々に衝撃を受け、『まだまだ私の知らない世界があるんだ』と実感しましたね。現代アートを集めだしたのは夫の死がきっかけです。ぽっかり穴があいた失意の心を埋めてくれたのが現代アートだったのです」

ご主人の存命中には骨董集めが趣味だった石鍋さん。家の中には現代アートとともに年代物のたんすや茶碗、ガラス工芸が所狭しと並べられています。玄関に置かれた香炉からは上品なお香の匂いが漂っていました。

「私にとって、アートや骨董は“家族”のようなもの。一緒に暮らして心地よいから家に置いています。コレクションを見せるためのお家という訳ではなく、毎日、自分の好きな作品の気配を感じられる空間をつくりたかったのです」

石鍋さんはアート作品と一緒に暮らすことで、自分の好きな空間を実現しています。

緑豊かな庭園を抜けると、大きな絵が迎えてくれる玄関

飾って楽しむことが作家への礼儀、巨大な絵画に合わせてリノベーションも

作品を買うときは、いつもアーティストに直接会って購入する石鍋さん。特に若手アーティストが初めて発表する作品を好んでコレクションしています。

「作品を家に置くことは、アーティストの一部とともに暮らすことだと思います。作品を見ると作った人の顔が浮かびますし、そこには作家さんの心が宿っている。だから私は、アーティストの人柄込みで作品を購入しているんです。初めて発表する作品が好きなのは、作家さんを応援したいから。初めて作品が売れた時って、きっとすごく嬉しいでしょうし、私が作れないからこそリスペクトしたい。」

石鍋さんお気に入りのスマホケースは、3人組の若手アーティスト、three(スリー)の作品

そうして集めたコレクションはざっと見る限り50点以上。日焼けや湿気を気にせず家中に展示されています。

「自然な暮らしを大切にしているから、保存することは考えていません。日本の伝統的な価値観も『いつか朽ちる』ことを前提にしています。私はそうした変化を楽しみながら生きていきたい。もちろん作家さんには『私は飾って楽しみますから、もし傷んでしまったらごめんなさいね』と断りを入れておきます。完璧に飾るというよりは、今の部屋の中にどう調和させていくかを考えています」

石鍋さんの家の2階にはお気に入りの作品を展示するコレクションルームがあります。目を引くのは、縦横3mを超える大きな油絵。石鍋さんはこの絵画を飾るためだけにリノベーションを行いました。

「もともとこの部屋には使っていない台所がありました。大きな絵を飾りたいと考えていたので、思い切ってリノベーションしてギャラリーに変えたのです。台所をなくすという大掛かりな改装でしたが、大切な“家族”と過ごす空間が拡がったので大満足です。」

リノベーションであれば、家の気に入っている箇所は残しつつ、変えたいところだけ変えられるというメリットがあります。
キッチンを取り払う、部屋数を増やす・減らすなどの間取りの変更も可能です。

台所をリノベーションしてギャラリールームに

暮らしを彩るもう一つの存在は“和服”

アートとともに、石鍋さんの暮らしに彩りを添えるのが和服。所有するものは250着を超え、石鍋さんは年中和服で過ごしているそうです。

「昔、海外の祭典に出席した日本人の手袋について『手袋が短くておかしい』と外国記者が新聞に書いたことがあったのです。それを見て私はすごく嫌な気持ちになりました。洋服は西洋人の衣装で、和服は私たちの衣装です。和服は日本の伝統に根ざしているので、どう着ても自分たちの自由でしょう?私は誰かのルールに乗っかるのが苦手なので、自分のルールに沿って生きていきたいんです」

石鍋さんの家は日本家屋とはいえ、階段や応接間もある近代風の造りです。和服で暮らすことに不便は感じないのでしょうか。

「不便は全く感じていません。強いていえば、西洋の造りは凹凸が多いので、袖がドアノブに引っかかるくらい。階段も全然平気ですよ。昔の人は、急な階段箪笥もこれで上り下りしていましたから」

石鍋さんはアクティブで、和装で海外に行く事もあると言います。ここで、石鍋さんの家に対する考えを聞くことができました。

「思うに、昔の人は健康のためにあえて体に負荷をかけていたんじゃないかって。昔の家は階段が急でしょう? 和式トイレはスクワットしなければ用が足せないし、布団は毎日押し入れに収納していたから筋トレになっていたと思うんです。ある程度負荷がかかる家に住むことが健康に繋がると思います。この家も増改築していますが、広いので換気だけでもいい運動になります」

そう話す石鍋さんは確かに若々しく、表情は生き生きとしていて肌にハリがあります。美の秘訣は、アートで感性を磨き、和装に身を包み、昔ながらの日本家屋で暮らしているからではないしょうか。

お気に入りの帯を手に取る石鍋さん。たんすにはたくさんの帯が入っています

生々流転、自然な暮らしを積み重ねたい

最後に、石鍋さんが暮らしの中で重視していることを聞いてみました。

「私は限りなく自然に近い暮らしをしたいと思っています。自然というのは、時間が流れるままに朽ちていくこと。流れに逆らわず、水のように流麗であること。だから暮らしの中で利便性だけを追求したくありません。そんなこだわりを持って、今の家に住んでいます」

そう語る石鍋さんは、住まいに対しても、時間の自然な経過とともに変化してゆくことで、より心地良さが生まれる「経年優化」の考え方を持っています。
このように自然な暮らしをとても大切にしている石鍋さんは、今後に向けてやってみたいことがあると言います。

「家族で暮らすと荷物が増えるので、物を減らして風通しが良い家にしていきたい。その上で、年中行事もきちんと行いたいと思っています。納戸にしまっているお雛様や端午の節句、クリスマスツリーなどの行事の物を毎シーズン出せば、家の淀みもなくなりますから。」

花が咲き、枯れて種が落ち、また芽吹くように、自らも生々流転の中にある。だからこそ暮らしに彩りを添え、今を楽しみたい。暮らしを大切にしつつ、その時のスタイルによってリノベーションを活用し、好きなものを“家族”として一緒に暮らしている石鍋さんの様子からはそんな願いが感じられました。

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