庶民の間に娯楽としての“旅行”という概念が生まれたのは19世紀だといわれています。トラベラーズチェックの発行元としてその名を聞いたことがあるかもしれませんが、トーマス・クックという人が旅行代理店を作り、いまでは「近代ツーリズムの祖」と言われています。旅が娯楽として広まっていくと、旅に欠かせないアイテムとして“カバン”が必要になってきました。ルイ・ヴィトンのスタートが王侯貴族のための旅行トランク作り、というのは知られた話ですが、最初に出したパリのお店は旅行用鞄の専門店でした。そう、旅とカバンは切っても切れないワンセットなのです。
21世紀の陰翳礼賛 第三回 「CAFE/MINIMAL HOTEL OUROUR」
日本最古の鞄屋が考える「旅のプラットフォーム」
2020年に創業130周年を迎える老舗「林五」は、日本で一番古いバッグ専門商社です。数年前に契約を解除しましたが、ドイツ製某人気旅行鞄の代理店として、長くこのブランドを支えてきました。そんな旅のアイテム、包むものを作り続けてきた同社ですが、130周年を前に“旅の形”という原点に立ち返る目標を立てました。それが“旅のプラットフォーム”作りだったのです。
いうまでもなく2020年は東京オリンピックの年。世界中から集まる人々を受け入れる東京の宿泊事情はまだまだ充分ではありません。民泊やAirbnbなどという言葉が飛び交う一方で、日本国内のビジネスホテルなどの価格が高騰しているという問題も。そんな現状に彼らが出した一つの答えが、アンビバレント(AMBIVALENT/両価性)というコンセプトに基づく宿泊施設でした。浅草橋駅のほど近く、台東区柳橋という問屋街にもともとあった林五の本社ビルを改装し、多様な顔を持つ小さなホテルを2019年6月にオープンしました。
様々な表情を持つ、アンビバレントな宿泊施設
アンビバレントを標榜するだけあって、そこにあるのは宿泊スペースの他、朝食・ランチ・カフェ・ディナー・バーを終日で楽しめる「Cafe Bar OUR」、地域密着を意識した食パン専門店「浅草 靑-AO-」、オリジナルアパレルやセレクトグッズが並ぶ「OUR PURCHASING DEPARTMENT/アゥア購買部」、宿泊者はもちろんランニングステーションとしても利用できる「檜SPA」などが併設されています。しかも1階カフェの壁面、2階から最上階までの吹き抜けの壁面には、絵画を中心としたアート作品の展示が行われます。
メインキャラクターのアワアワちゃんがデザインされたサーモマグなど、オリジナルグッズは1階の購買部で購入可能。
1階の「Cafe Bar OUR」は、朝昼は焼きたての食パンが楽しめ、夜は小料理屋となるオールデイなカフェバー。パンは併設された食パン専門店「浅草 靑-AO-」から供給されます。ディナーは有名和食店出身のシェフによる“モダン小料理屋”をテーマに、温かみと親しみがありながらトウキョウの空気感をまとった料理を楽しめます。
大吟醸小麦と呼ばれるオーストラリア産最高級小麦と20%の生クリームがふわふわ食感を生む、食パン専門店「浅草 靑-AO-」は注目の的。
2階から4階はカプセルホテル仕様の宿泊施設「Hotel OUR」。上下2段のボックスが連なるパーソナルルーム、上下2段×2の4名で利用できるグループルーム、ゆったりと2名でくつろげるプライベートルームが用意されています。従来の無機質なカプセルホテルの概念を覆すウッディなデザインにも注目です。
最上階の宿泊者以外も利用できる「檜 SPA」は、本物の檜を使った浴室内が身も心も癒してくれそう。パーソナルルームの宿泊料金が一泊4000円(朝食付き)という価格設定も嬉しい限りです。
※2019年9月時点
清潔感溢れる木を多用したパーソナルルームと、家族や友人など2~4名で宿泊できるグループルーム。
最上階の癒し空間「檜SPA」。夜のライトアップは格別の雰囲気。
みんなにとって居心地が良い、地域と共存する新しい宿のかたち
海外からのゲストはもちろん、国内のビジネス利用としても新しい宿泊スタイルが提案されています。また、「アンビバレント」というコンセプトとは別に「ネイバーフッド」という裏コンセプトも意識されています。これは地域の人々との共存を目指したもので、誰もが利用できるカフェやパン屋さん以外にも、デジタルな秋葉原とアカデミックな浅草の中間点という土地柄を意識したインテリアデザインなども注目です。言われて気が付きましたが、天井の丸い照明器具は浅草仲見世のイメージなのだそうです。
鞄メーカーらしく、オリジナルでデザインしたレザーの案内表示板。人気イラストレーター、ハシヅメユウヤの書き下ろし。
世界の中の日本、日本の中の東京、東京の中の下町。深遠な文化や最先端のテクノロジー、他よりははるかに安全な社会…。あらゆる面から見て、こうしたスタイルの空間が存在し得るのは世界中で日本だけ。旅人たちのプラットフォームを、創業130年の鞄メーカーが作った意義は、21世紀の旅の価値観をリードするものになるような気がします。
CAFE/MINIMAL HOTEL OUROUR
東京都台東区柳橋2-20-13 ☎03-5829-6470
https://ourour.jp
<プロフィール>
土居輝彦/ドイテルヒコ
1982年より「monoマガジン」で雑誌編集者に。1984年より2004年まで同誌編集長。その後も同誌編集ディレクターとして「Loro」、「クロムハーツマガジン」などの刊行物を多数創刊。IDSデザインコンペ副審査委員長、クールジャパン推進会議出席などモノ文化全般の視点で活動中。主な著書に「機能する道具、傑作品」、「築35年古家再生」(共にグリーンアロー刊)など。
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