「組子」とは、細い木片を釘を使わずに組み合わせ、緻密な幾何学的紋様を生み出す木工の伝統技法のこと。古来、和室の欄間や障子などに用いられてきましたが、和室の減少とともに組子の技術も衰退。その流れを変え、新たな潮流を導こうとしているのが、吉原木工所の吉原敬司さんです。組子の技術を広く世に届けるべく、商品開発や若手の育成、情報発信にも取り組んでいます。
受け継がれる伝統の心「組子細工」
飛鳥時代から続く組子細工。寸分の誤差も許されない
細木の木片による直線と曲線が繊細に組み合わされ、まるで曼荼羅を描いた絵図のような、組子細工。飛鳥時代に建立され、現存する世界最古の木造建築物である法隆寺でも、手すりの装飾として組子細工が見られます。室町時代には障子などの建具や欄間などに組子の装飾を施すようになり、江戸時代以降、木造建築の需要が高まると、職人たちは腕を競いさらに組子の紋様の種類が増えていきました。現在までに伝わる組子の紋様は200種類以上あるそうです。
組子細工の材料には、比較的まっすぐに成長する杉や檜などの針葉樹が使われます。細くひき割った木に溝や穴、ほぞ加工を施し、カンナやノコギリ、ノミ等で調節しながらひとつずつ組み合わせていきますが、わずか0.1㎜でもずれがあるとうまく組むことができません。そのためには、木のクセや性質をよく把握していることが重要です。どの木をどのように切り出して、どこのパーツとして使うか。良質な材料を選別する目とともに、その使い方を判断する能力、そして精密な加工技術も必要になります。一人前になるまで10年はかかるのだそうです。
自分の技術を信じて未知の世界に踏み出す
島根県の山あいにある吉原木工所の2代目である吉原敬司さんは、家具や建具をつくる木工職人だった父から、「人のできないことをやれる職人になれ」と言われてきました。そして、この地では誰も手掛けていなかった組子の技術を身につけるため、富山県の木工会社で職人として6年修行した後、吉原木工所に戻ります。しかし、和室の欄間や障子の装飾として使われることがほとんどだった組子は、住宅の洋風化にともなう和室の激減で需要がなくなっていました。
「それなら今の住宅に合うものをつくればいい」。そう考えた吉原さんは各地で開かれている工芸品の展示会などに赴き、情報収集に努めます。試行錯誤の末に生まれたのが、フロアランプ「しずく」やリビング障子などの製品でした。
「しずく」は、140本の桟で組み上げた格子を水滴のような断面になるよう柔らかく曲げた照明器具。細かく組んだ格子にアイロンで熱と蒸気を当てて柔らかくし、一気に曲げていきます。左右の腕の力を均等にかけて、ゆがみなく成形する技術は熟練の職人ならではのものです。木材特有の柔らかな質感を曲面によって表現しています。陰影の妙が印象的な作品です。
「東京の展示会に参加したとき『しずく』を持って行き、その時、自分の作品を初めて人にほめてもらえました。いいものをつくるだけでは自己満足で終わってしまう。価値を認めてくれる人のところまで届けなくてはいけないんだということを思い知りました」と吉原さんは振り返ります。
伝統の技術を継承し、地方にいながら世界に向けて発信する
これはリビング障子の組子の見本です。吉原木工所のリビング障子では、伝統の紋様のほか、吉原さん独自のデザインも含め、20種類以上のバリエーションがあります。2013年にはグッドデザイン賞も受賞しました。
カーテン代わりに洋間でも使えるデザインのリビング障子は、欄間と違って開閉する建具でも耐えられるように強度を高めています。また、ひとつの紋様のサイズを従来の組子細工の2倍の大きさにすることで、広々とした空間にも映えるようにしています。
リビング障子は、顧客宅の室内の寸法に合わせて製作します。昔は、一軒ずつ実地に赴いて採寸していたが、吉原さんは数種類のオーダーシートの書式を独自に用意。遠方の顧客でもこのシートをもとに地元の建具職人に採寸してもらうことで、日本全国から受注できるようになりました。
オリジナル製品の一つ、壁面照明「風」のパーツ。細やかな格子がモダンな室内にもマッチします。
工場内に新設したトイレには、奥の壁と天井に施した組子だけでなく、石州和紙や石州瓦など地元の工芸品を採用。まるで地場産材のショールームのような仕上がりになっています。
いま吉原さんが直面しているのは若手の育成です。「僕が親方から受け継いだ技術と、僕が自分で工夫して編み出した技術、それぞれをきちんと彼らの中に残してやりたい」。伝統の技術を継承しながらもその枠内にとどまることなく、柔軟に今の世に求められるものをつくる。地方にいながら世界へ向けて発信する。逆境の中でも粘り強く、創意工夫を積み重ねる。そんな職人がいたからこそ、伝統の技は時代の変遷を乗り越えてこられたのかもしれません。吉原さんの組子の技も、きっと次代へと伝わっていくことでしょう。
吉原木工所 http://yoshiharawoodworks.com/
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