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おじいちゃんとおばあちゃんが一番しあわせだった日 | 戸越銀座で親子三代続くお店を営む佐藤さんご夫婦
―お二人の一番しあわせだった日を教えてください。
元昭さん
去年の11月26日に救急車で運ばれてそのまま8時間手術をしたんだ。大動脈解離っていう病気で三週間ぐらい入院してね。今は人工のゴム血管が身体に入っていて、あんまり無理ができないんだよ。広尾病院の隣に看護学校があって、購買がない学校だからお昼にパンの販売をさせてもらっていたんだけど、身体のこともあって辞めさせてもらったんだ。そしたら、生徒さんが色紙を書いてくれてね。「早く戻ってきてください」とかいろんなメッセージがあって、今までそんなことされたことなかったから感動したね。結局身体のこともあって辞退させてもらったんだけど、自分が真面目に仕事をやっていたんだって改めて感じたね。
悦子さん
あれは、いつ頃だったかしら。確か2011年の10月だったわね。次男の結婚式が沖縄であって、お父さんと二人で沖縄へ行ったの。二人で45年近くお店をやっているから、なかなかまとまったお休みがなくてね。二人で旅行なんて、本当に久しぶりだったわ。旅行と言っても、次男の結婚式のために行ったから、自由な時間は半日しかなかったの。土地勘がぜんぜんなかったから、どこか一ヵ所行く場所を決めようと思って、首里城へ行くことにしたの。ちょうど観ていたドラマの舞台だったから、少しワクワクしたわ。首里城に着いたら、とても立派でね。「あのシーンの場所だわ」って盛り上がってすごく楽しかったわ。またお父さんと二人で旅行に行きたいわ。次は京都かしらね。
―ご夫婦の馴れ初めを教えてください。
悦子さん
私が働いていた職場の向かいに彼の姉の旦那が働いていて、弟だって言って紹介してもらったの。
元昭さん
ちょうどその頃彼女がいなくてね……。
悦子さん
一回だけ会うつもりで行ったんだけど、そしたら待ち合わせ場所に全然来なくて(笑)。
元昭さん
集合場所間違えちゃってね。結局兄のおかげで会えたんだけど、第一印象は細くてかわいいなって思ったね。
悦子さん
それからは何回か会ううちに結婚する雰囲気になったね。
元昭さん
僕も両親とお店のことで意見が合わなくて、味方になってくれる人が欲しくてね。いいタイミングだったと思うよ。
―お店を始めたきっかけはなんですか?
元昭さん
祖父の代からここでお店をやっていてね。最初は和菓子の製造業だったんだけど、父の代でこれからはパンが来るって思ったらしくて、メーカーのパンの販売を始めたんです。自分たちで作らなきゃあんまり利益はでないから、僕の代からパンをお店で作り始めたんです。
悦子さん
主人はやると言ったら意見を曲げないからね……。結婚するときにパン屋をやる覚悟はあったわ。でも最初はパンを作るのも一緒に覚えなきゃだし、「いらっしゃいませ」って言うのも抵抗あってね。慣れるまで大変でした。
元昭さん
最初は発酵させなくていいクレープとか簡単な商品から作り初めて。だんだん技術を自分たちでつけていって今の形になったんだ。
―相手の頼りになるところは?
元昭さん
役割分担を決めたんじゃなくて自然に、妻がレジで私がパンを作るって今の形になったからね。お客さんへの対応も上手いし、僕に協力してくれる味方だからね。妻がいると安心できるんだ。
悦子さん
私に決定権はないからね(笑)。私が言うと必ず反対されるの。
元昭さん
新商品の案を出しても、必ず反対するんですよ。最近引き下がらなくなってね。でも、言い合いになっても付き合いが長いから尾を引かないね。
悦子さん
私は怒ると返事しなくなるからでしょ? でも、重いシャッターを主人が開けてくれたりするんです。結局は主人を信頼している部分はありますよ。
―一日の業務の流れを教えてください。
元昭さん
体調を崩してからはあんまり無理をせず、朝7時くらいに起きて仕込みをしています。発酵の時間があるから、寝たりしながら休み休みやっているよ。
悦子さん
私もお父さんに合わせて8時くらいにお店を開けてケースを出したりしながらお店の準備をしますね。
元昭さん
パンを焼きながら営業して、19時~20時くらいにお店を閉めています。
悦子さん
昔は起きてからシャッターを開けて、寝るまで開けていたけどね。今はコンビニもあるしそんなに長くやっていないんです。
元昭さん
今はのんびりやっているよ。
悦子さん
歳も歳だしね(笑)。
―お店のおすすめのメニューはなんですか?
元昭さん
売れ筋の商品は戸越銀座のカレーパン。菓子パンの生地を使用して少し甘みを出すんだ。あとは、生パン粉とサラダ油で揚げて食感をサクッとさせているんだよね。
悦子さん
ほかにも大辛口カレーパンやピロシキなど種類も豊富。あとは、戸越銀座のくるみマフィンや甘食、ガーリックトーストもおすすめ。
元昭さん
くるみは身体にいいからね。なるべく、くるみを多く入れてより身体にいいパンにしているよ。
悦子さん
あとガーリックトーストはお客さんに人気。戸越銀座のお祭りで御神輿の休憩所がこの近くにあるから、毎年差し入れで出したりしているわ。
戸越銀座ブランド くるみマフィン プレーン227円(税込)、スモールサイズ147円(税込)
大辛口カレーパン200円(税込)、とごしぎんざのカレーパン230円(税込)
-三人のお子さんについて教えてください。
元昭さん
みんな男の三兄弟だよ。
悦子さん
三人ともお嫁さんに恵まれてね。孫は5人みんな男の子なの!
元昭さん
長男はこの辺に住んでいるから、孫もよく遊びに来るよ。次男は三鷹町の方に住んでいて休みの日に遊びにくるかな。
悦子さん
最近では長男がお父さんに代わって商店街のお祭りの手伝いに行ってくれてね。ちょうど今日も行っているわ。
元昭さん
三男は婿養子に行ったから遠くに行っちゃって年に数回しか会えないんだけどね。
悦子さん
みんなしっかり自立してくれたね。
―お店を営んでいて嬉しかったことはなんですか?
元昭さん
作ったパンをおいしいと言ってもらえると商売をやっていこうっていう気持ちになりますね。そういう意味では本当にお客さんに支えられている。
悦子さん
お客さんと世間話するのも楽しいですね。積極的に私から声かけているんです。
元昭さん
本当にこの人は話が上手なの!
悦子さん
この辺の人は一人暮らしの方が多いからね。こっちから声をかけると喜んで話してくれるの。ときどき話しすぎて、主人に商売優先せずに無駄話しているって怒られちゃうこともあるけどね(笑)。
―戸越銀座のいいところは?
悦子さん
お客さんの人柄が温かいですね。話していてもとてもいい人ばかり。
元昭さん
良いところも悪いところも隠さない素朴さがある人が多いね。商売をやっている人が多いからお互い助け合っている街だよ。
悦子さん
素朴さは確かに! 他の商店街はよくわからないけど、すれ違ったら必ず挨拶するからね。こういう街ってあんまり今はないのかもしれないね。
元昭さん
町会に入っているから、町会の人とも関わりがあって、お祭りの準備とかで関わるからみんな仲良しだね。身体壊してあんまり飲みに行けないけど、昔はよく町会の人と飲みに行っていたんだ。昔は僕たち飲み仲間のことを三馬鹿って言われていたよ。
―夫婦としてのこれからの夢はなんですか?
悦子さん
実は、目処がついたら主人とお店を畳もうって話しているんです。土地の更新がある4~5年後かな?
元昭さん
息子たちが継ぎたいなら譲るし、別にパン屋をやる必要もないと思う。
悦子さん
お店を畳むのはしょうがないことだね。ほかのお店をやるにも機械を新しくしないといけないし。
元昭さん
あと、たまには旅行にも行きたいね。子どもが小さいときは遠くへは行けなかったけどしょっちゅう出かけていたからね。
悦子さん
私は生まれ故郷の秋田にも行きたいな。
元昭さん
高校卒業したときに九州に仲間と行ってね。また、同じ旅行を妻と行くのもいいかもね。
戸越銀座商店街では、町会に入っているお店同士で商店街を盛り上げようと協力し合っているそう。常連のお客さんとの繋がりだけでなく、近所のお店同士の繋がりが深いのは商店街ならではですね。
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