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Surf Life | 房総の海と生きていく暮らし

寝ても覚めても、頭の中に思い浮かぶのは
南房の波と、海で過ごす時間の心地よさだった。

Chapter.01

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房総半島の南に位置する鴨川市江見町でサーフショップを営む佐藤さんの一日は、タンブラーにお気に入りのコーヒーをドロップして、夜明けの海岸線をいつものサーフスポットを目指して車を走らせる波チェックから始まる。10年前にこの地に『モアナ・コースタル・サービス』という自身のお店を構えてから、変わること無く続いている毎朝の日課だ。
「波チェックをして、波が良ければ開店前に海に入っています。毎朝サーフィン出来ることって、すごく贅沢なことですよね。ここに移り住むまでは休みの日にしか出来なかったことですから。」

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十代の頃に出合って以来、大好きになったサーフィン。その頃は地元の八千代から九十九里に通う日々を送っていた。九十九里の特に片貝から太東までのエリアはプロサーファーも多く、コンテスト志向のサーファーが集うメッカだ。佐藤さんもそんなエリアで明日のトッププロを目指すサーファーたちに混ざって練習に励んでいた。

そんな時、突然佐藤さんの人生に転換期が訪れる。当時務めていた外資系企業が日本での事業から撤退することになったのだ。時代はちょうどバブル経済が崩壊し、世の中が混沌としていた1995年。普通なら人生最大のピンチと言ってもおかしくないそんな状況でも、佐藤さんにとっては、その頃すでに漠然と頭の中に思い浮かんでいた“夢”を現実にする好機に感じた。

「これを機に、もっとサーフィン中心の人生を送ろう!」

自分の人生のど真ん中にサーフィンを位置づけ、それを生業にするために選んだ次の仕事、それはサーフショップの経営だった。もちろんショップ経営のノウハウなんてまるでない。でもサーフィンで出逢った仲間達の協力と、毎日大好きなサーフィンにかかわっていられる嬉しさで、苦労もまったく苦労と感じることなく、稲毛の駅前に「アルトイズ・サーフ」サーフショップをオープンするまでになった。

ショップ経営も軌道に乗り、順調にサーフィンライフを重ねていたある冬の日、たまたま暖かさを求めてやって来た南房の温暖な気候と自然溢れる美しい風景に、それまで通っていた九十九里とは違う、心の安らぎを感じた。若い頃は誰かと競い合って波に乗ることも、真冬の冷たい海でサーフィンすることも全く苦ではなかったけれど、もうそんな向き合い方から卒業するときだったからかもしれない。

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寒流の影響で水温の低い九十九里よりも、冬でも華が咲き誇り、黒潮の影響で伊豆下田と変わらない温かい海の南房エリアへ。そしていつの間にか、南房エリアのパーフェクトな波と、のんびりと海で過ごす時間の心地よさが、いつも頭の中に思い浮かぶようになっていった。

「いつかは自分も海辺で波とともに暮らしたい。」
そう思い始めたら、もう気持ちを抑えることは出来なかった。

「千葉で生まれ育って、サーフィンに行くのも千葉の海だったので、最初から房総以外に移り住む選択肢は無かったです。それも、温暖な気候と白い砂浜、それと海と山が近くて自然豊かな南房エリア。もうここしかないって思っていました。」

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いい意味でなにも無い。
でもそこには海や山、そして豊かな自然があった。

Chapter.02

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意外にも早く理想的な場所は見つかった。鴨川市江見。南房総市のすぐ隣で、通い慣れた和田浦のサーフエリアもすぐ側の土地。目の前には畑を挟んで白いビーチが広がり、国道を隔てた後ろには燃えるような緑を湛えた山が迫る。

理想的な環境に移住するので、佐藤さんにはなにひとつ不安はなかった。でも、住み慣れた街の生活と比べれば、それこそここにはなにも無い。
「夜になれば真っ暗だし、当時はスーパーもホームセンターも近くにありません。妻にとってはとても不安だったでしょうね。買い物ひとつするのも不便だし、友達もいない訳ですから。」
では、どうやって佐藤さんは奥様を口説いたのか?
「行くぞ! って…(笑)。もともと妻も海が好きでしたし、文句も言わずについて来てくれました。」

こうして2006年11月に自宅兼用のお店が完成して、佐藤さん夫妻の理想のライフスタイルがスタートした。

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温暖な気候と温かい人たちとの豊かな日々

Chapter.03

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この地に移住してすぐに子どもにも恵まれ、佐藤さん夫妻の南房総ライフは、忙しいながらも順調に季節を重ねていった。ご近所の方ともすぐに打ち解け、地域のお祭りに呼ばれたり、畑で採れた野菜や釣れた魚をいただいたり。

都会ではもう廃れてしまったそんな温かい交流が、佐藤さんにはすごく心地よかった。
「ここで暮らすようになって、野望というか物欲みたいなものがまったく無くなりました。家族がいて、支えてくれるご近所の方たちがいて、お店に集まってくれる仲間たちがいて、そして海があって波があって…。もうそれで十分に満足なんです。」
と、佐藤さんはもの静かに、優しい笑顔で語ってくれた。

憧れた海辺での生活は、笑い声のたえない
本当の豊かさがあった

Chapter.04

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2013年の2月に1階の店舗部分と外装の改修工事を行った。集まってくれるお客さんたちに、少しでものんびりと過ごしてもらえるようにするためだ。

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設計を担当したデザイナーは、通りからもすぐにお店だと認識出来ること、そしてこの温暖で爽やかな気候と開放感を考えて、カリフォルニアの洗練されたお店をイメージして設計した。大きなカウンターと既存の梁を活かした開放感のある店内。そこにこだわりのインテリアを配して、最新のギアをゆっくりとチェック出来るように、自然光の入り具合も考慮した。

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「お客さんたちのほとんどが、週末の休みに楽しくサーフィンして、日頃のストレスを海で洗い流しに来ています。だから、お店では出来るだけのんびり過ごしてもらいたかった。」
と語る佐藤さん。自分自身が海辺の生活で得たストレスフリーなライフスタイルを、このお店を通してすべてのお客さんにフィードバックする。

「いい季節になってきたので、最近ではみんなでサーフィンした後は、毎週BBQですね。いい波に乗れた後に、山裾に陽が沈んで綺麗な夕焼けをバックに、みんなで過ごすハッピーアワーは本当に最高です。」

海とともに生活するサーファーたちの
ストレスフリーなライフスタイル

Chapter.05

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ハワイやカリフォルニアやオーストラリアやバリ島など、サーフィンのために訪れた様々な国で出会った、海とともに暮らすサーファーたちのライフスタイル。佐藤さんに大きな影響を与えたのは、彼らのそんなストレスフリーな生き方だった。

誰かと競うのではなく、ただ海や自然と調和するためにサーフィンする。それはまさにサーフィンというライフスタイル・スポーツの神髄ではないのか。

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サーフィンと出合って、初めて気がついた自然とともに暮らす尊さ。海と波を生活の中心に置くことで知った本当の安らぎ。そしてお店に集う仲間たちと波や時間を分かち合うことで得られた悦び。佐藤さんが求めたすべてのものが、この南房総には揃っていた。

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