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おじいちゃんとおばあちゃんが一番しあわせだった日 | 祖師ヶ谷大蔵で38年間お店を続ける青山さんご夫婦

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—お二人の一番しあわせだった日を教えてください。

prof_oj幸雄さん
エッセンの開店の日は一番しあわせだったね。もとは大手のハム会社で商品開発をしていたんだけど、人付き合いも組織をまとめるのも苦手で脱サラすることを決意してね。最初は自分のお店を持つために小さなお店で修行を始めたんだけど、給料は格段に下がるし、将来は不透明で会社を辞めなければと何度も後悔したよ。でも、家内の親にまで借金をして開店までこぎつけたし、味を知ってさえもらえばお客さんが来てくれる自信はあったから、自分で決めたことをやり通そうと思ったよ。開店日の前から私と家内とで駅前に手作りのビラ配りをしたり、いろいろ手は尽くしたね。不安と自信とが入り交じった心境でお店を開店すると…、すぐにレジはパンク状態! 300人ものお客さんが来てくれたんだよ。「これで大丈夫」と手応えを掴めたね。今でもあのときの喜びが私の支えだね。

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prof_ob節子さん
私がしあわせだったのは娘の入園式の日ですね。今、お店を手伝ってくれている長女は、生まれたときは超未熟児で、生まれても泣き声一つ上げず、そのまま大病院へ運ばれて行きました。そのときの娘の姿を見るのが怖くて、初めて姿を見たのは出産してから数日経ってからだったかしら。保育器の中で治療を受ける娘は、とても小さかった…。お医者さんには「普通には育たない」と言われていたから、かわいそうでしかたなかったのを覚えてるわ。苦労するのはこの子だから。生まれて一カ月で網膜症の手術を受けたし、母乳を直接与えてあげることもできなくて…。でも、幸運なことにその後すくすくと育ってくれて、よく熱を出すのはむしろお兄ちゃんのほう。そんな頃を思い出しながら娘の入園式に参加していました。普通には育たないと言われた娘が、周りの子と同じように返事をする姿がとてもうれしかった!

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—それでは、お店のことやお二人のこと、もう少しお伺いさせてください。まず、お二人の生い立ちは?

prof_oj幸雄さん
僕は羽田の漁師町出身で、食品を作ることが好きだったから食品加工の学校に行ったね。ちょうどその頃、ハムやソーセージが高級品で、将来的に僕ら団塊の世代の家庭に普及すると思って、ハムメーカーに就職しました。
節子さん:私は羽田の隣の蒲田で生まれました。家が工場だったから、短大を出た後にちょっと就職して、すぐに家の手伝いをするようになって。全然出会いがなくて、お見合いをして主人と出会いましたね。

—お二人の最初の印象はどうでしたか?

prof_oj幸雄さん
会ったときに結婚するんだろうなと…(笑)。
prof_ob節子さん
結婚するまで短かったからね。半年くらい?
prof_oj幸雄さん
その当時はプロポーズなんてあまりしないし、周りも結婚すると思っていたしね。家内の家に行ったら結婚する前提で話が進んでいたもんね(笑)。
prof_ob節子さん
そうだね。まあ、歳も歳だったからね。

—お店でのお二人の作業、一日の流れを教えてください。

prof_ob節子さん
お店が始まる30分くらい前に来てお店の掃除。お客さんが来たら、商品を計って袋に入れたり、店番をします。商品の種類によって包み方が変わるので間違えないように気をつけていますね。あとは、19時半にお店が閉店するんだけど、家事があるから、私は18時ぐらいに家に帰っています。
prof_oj幸雄さん
原料の仕入れ・製造作業が僕の仕事だから、前日に下ごしらえしたものを使って製造しながら、次の日の下ごしらえを同時に進めています。妻が帰った後は、僕が店番をして、閉店してから片付けして家に帰るね。

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—お店で意識していること、おすすめの商品は?

prof_oj幸雄さん
ロースハムやソーセージウィンナーなど基本的な商品にチーズを入れるなどの加工をしているから、原料にはこだわっているね。原料が美味しくないと、いくら手間をかけても美味しくならないから!
prof_ob節子さん
あと、うちのお店は固定客が多く、お友だちみたいな人もいれば、自分の子どもくらいの年齢の方もいます。みなさんが話しやすいように心がけていますね。
prof_oj幸雄さん
うちのおすすめ商品は原料の味がわかるロースハムやベーコン、ソーセージウィンナーかな? あと、「チーズ ソーセージ」は子どもにも人気な商品だよ。
ojioba_1_7「チーズ ソーセージ」(100g)¥320

—相手の頼りになるところはどんなところですか?

prof_oj幸雄さん
お店のこと全般だね。お店の販売は家内が全部やってくれています。お客さんとの何気ない会話をしてくれてるから、僕は作る方に専念できる。
prof_ob節子さん
主人がいたから38年できたんだと思いますね。製品に対して、誠実に作っているから、ハムやソーセージの味を知って、お客さんが来てくれるんだと思いますよ!

—お店を営んでいて大変だったことは?

prof_oj幸雄さん
開店するまでも大変だったけど、開店してから二ヵ月くらいしてからお客さんが急に来なくなっちゃってね…。家賃や借金、生活費もあるからどうしようって頭を抱えていました。
prof_ob節子さん
私は、そのときはそんなに心配していなかったんですよね。全然わかっていなかったし…(笑)。
prof_oj幸雄さん
そしたら、お客さんの旦那さんがカメラマンで、雑誌に「隠れた味コーナー」みたいな企画で1ページぐらい取り上げてくれたんだよ!
prof_ob節子さん
それからは反響がすごくて、デパートの催事で扱いたいという人も!お客さんがたくさん来てくれて嬉しかったですね。

—お客さんとの印象的なエピソードを教えてください。

prof_oj幸雄さん
だいぶ前になっちゃうけど、とある有名な俳優さんが入院しているときにそのマネージャーさんが来てくれてね。一日の塩分制限があるらしくて、お金はいくらかかってもいいから一番いい肉で塩分の少ないハムを作って欲しいって頼まれて。
prof_ob節子さん
それから何回かマネージャーさんが来てくれましたね。俳優さんが亡くなったあと、奥様が本に「減塩のハムをありがとうございます」ってサインをくださったんです。
prof_oj幸雄さん
あのときは、手間がかかる作業だったけど、喜んでくれて嬉しかったですね。

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—この街の良いところは?

prof_oj幸雄さん
開店した頃は、個人のお店や物品販売のお店も多かったから、とても賑やかだったね。生活するにはいい街だと思ったよ。
prof_ob節子さん
私の実家が工場だったから、周りに木や公園がなかったんです。この街は緑も多いし、綺麗なところだと思いましたね。
prof_oj幸雄さん
今はコンビニやチェーン店が多くなって街の雰囲気はだいぶ変わったけれど、お客さんは変わらずいい人が多い。心地よい距離感で接してくれるね。
prof_ob節子さん
子どもが小さいときは商売やりながらだと大変だからって、お客さんが子どもの面倒を見てくれましたね。とても助かりました。
prof_oj幸雄さん
あとでお礼しようとしても、「お礼はいらない」って言われて。何人もの人に助けてもらったね。

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—夫婦としてのこれからの夢、やりたいことはありますか?

prof_oj幸雄さん
僕たちはお店があったから働き詰めで、できれば娘夫婦にお店は全部任せて、のんびり温泉旅行とかしたいよね。
prof_ob節子さん
私もお花が好きだから、時間ができたら日本中のお花を追いかけたいな。それこそ、主人と一緒に旅行しながらね。
prof_oj幸雄さん
娘夫婦たちにはまだ安心してお店を任せられないからね。
prof_ob節子さん
うん、もうちょっとしたらかな?

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昔はコンビニやチェーン店がなく、特色のあるお店がたくさんあって商店街も栄えていたそうです。都市開発が進み、自営業のお店が少なくなってきましたが、お客さんとの絆を大切にする地域密着型のお店を、お二人でこれからも守り続けてほしいですね。

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