Relife mode

Relife man | 38歳出版社勤務。過ちから逃げるように始めたランニングの先に見えた新しい自分。 そして新たな出会いからのリライフ(前編)

子どもから「おすもうさん」と言われて始めたランニングが、抱え続けた孤独感・罪悪感を振り切って行く 絞られていく身体と安定していく心、その先には……

Chapter.10

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「落ち込んでいるときは人と会え」なんて言いますが、会社で孤立して以来、他者と接することに非常に消極的になっていきました。仕事は辞めずに続けていましたが、職場における人望は地に落ちているため、同僚とは事務的な会話を交わすのみ。せっかくの休日も家にこもってゲームというルーティン。
ずっと家にこもっているから、一言もしゃべらない日もあったりして。「あれ、声ちゃんと出るかな」なんて急に不安になって、テレビに映るタレントに向かって話しかける、なんてこともありました。

あまりにも人との交流がない日々が続いて、帰省してお袋の手料理でも食べたいな、なんて思うこともありました。でも、離婚してからは両親との関係がギクシャクしていて、実家に行ったところで何を話していいかわかりません。

コミュニケーションに乏しい毎日だと、人からちょっと声をかけられるだけでもすごくうれしいんですよね。近所のお弁当屋さんに愛想のいいおばちゃんが働いていて、「お兄ちゃん、余ってるけど食べる?」なんて言って余った惣菜をくれたりするので、世間話をしたいがためにしょっちゅうそこでお弁当を買っていました。

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そんな僕に、ちょっとした事件が起きました。

ある日の夜、会社から帰宅してシャワーを浴びようとしたら、なぜかお湯が出ません。深夜だったのでガス会社に連絡するわけにもいかず、しぶしぶ近所のスーパー銭湯へ足を運びました。
久しぶりに足を伸ばしてお湯に浸かったら想像以上に気持ち良くて、結果オーライだな、なんて思ったんです。でも、浴場から出ようとしたところで、まだ小学校に上がっていないくらいの丸刈りの小さな子どもに「パパ、おすもうさん!」って指をさされちゃって……。
自分では小太りくらいの認識だったんですけど、力士と間違えられたのは正直、ショックが大きかったですね。

家庭や仕事の問題で心身のバランスを見失っていたのかもしれません。無垢な子どもの声に我に返り、とにかく太る前のカラダを取り戻そうと決意。ジム通いは続かなくなると考え、ハードルが低く手軽にできる運動として、ランニングを始めました。

走っている間は消える心のノイズ 気付けば22kgの減量成功 取り戻せたほんの少しの自信

Chapter.11

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走っている間は、頭の中が空っぽになります。当時の僕は、同僚を裏切ったという自己嫌悪が長く尾を引き、常に心のどこかで自分を否定していました。愚行を思い出しては自らを責めてしまい、寝ても覚めてもどこか苦しいような状態でした。

でも、無心になって地面を蹴っているときだけは、悩みから解放されました。距離が進むにつれて雑音は耳に入らなくなり、自分の呼吸と心臓の脈打つ音だけが聞こえる。一時ではありますが、煩わしい悩みが消え去ったような錯覚を味わえる。肉体的には確かにきついのですが、どこか心地いい。

僕にとって走ることは現実逃避に近い意味もあったかもしれないし、走ることで過去の自分を振り切りたかった、と言ってもいいかもしれません。
過去の自分に追いつかれたくなくて、僕は走り続けました。

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毎晩走るので、スニーカーのソールは急速にすり減っていきました。のめり込むに連れ、新宿のスポーツショップへたびたび通うようになり、ランニングシューズやジョギングウェアを買いそろえました。スタッフの飯倉さんが親切で「少しずつ痩せてきましたね」なんて声をかけてくれて。ショップに行くたびに交わす会話も楽しみになりました。

気が付けば、一年後にはみごとダイエットに成功。22kg落とすことに成功しました。
痩せたからといって、孤独な日々に大きな変化はありません。同僚の反応も通り一遍で、誰も心を通わせてはくれません。それでも、「自分の意思で健康を管理できるんだ」という自信がついたことは、僕にとって大きな収穫でした。なぜなら、肉体をコントロールできるなら、精神的にもより自分を律することができるはず、と思えたからです。

欲望に負けて誰かを裏切ったりすることは、二度としたくありません。走るようになって、ほんの少しだけ強くなれた気がしました。

ダイエットに成功し、ほんの少し自信を取り戻した勇次に、新たな出会いが訪れる。

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