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昨今は職場の近くに住む「職住近接」のライフスタイルが注目されているが、一方で、何らかの理由で長距離通勤を選んだ人もいる。高速バスや特急電車、なかには新幹線を使い、都内へ2時間近くかけて通勤する長距離通勤者たち。なぜ、そうまでしてそこに住んでいるのだろうか? 単純にその街が好きということもあるだろうし、あるいは何かやむにやまれぬ事情、知られざるドラマがあるのかもしれない。
そこで今回は、神奈川県の逗子で暮らし、東京に勤務する麻衣さんに、約2時間の長距離通勤と引き換えに手に入れた暮らしについてお話を伺った。
麻衣さんが逗子に住み始めたのは2016年10月。山に近い高台に夫と一軒家を建て、現在は子ども、ペットとともに暮らしている。
なお、逗子は故郷でもなければ、親しい友人が住んでいたわけでもないという。では、なぜ縁もゆかりもなかった土地を移住先に選んだのだろうか。
麻衣さん(以下省略)「きっかけは25歳の頃に訪れた葉山のホテル。足を踏み入れた瞬間、自分の中でピピッと反応してしまったんですよね。ラウンジの窓から見える、ターコイズブルーの海、テラスに並んだ青色のパラソル、生い茂った山々。もう一目見た瞬間、葉山の景色に心を奪われてしまったんですよ。それ以来、“いつか葉山に住みたいな”という憧れの感情が芽生えるようになりました」
「夫婦ともに一戸建てが欲しくて、でも都内だといい土地に巡り会うことは稀ですし、コストも高い。そこで、郊外に目を向けてみた時に、葉山や逗子の風景を思い出したんです。もともと夫は札幌、私は仙台と、自然に恵まれた地域で育っていたこともあって、、海も山もある葉山・逗子・鎌倉エリアは理想に近かったんですよ」
「地元が仙台ということもあり、ハザードマップに引っかからない場所は重要でした。あとは、治安だったり、スーパーや学校等の住環境、駅までのアクセスなどを挙げていくと、希望の条件を満たす土地はあまり多くありませんでしたね。ただ、色々と条件を挙げたものの、最後に決め手になったのは美しい並木道。初めてこの場所を訪れた時に素敵だなと思い、すぐに決めてしまいました。その後、並木道の木々が桜ということを教えてもらってからは、春が待ち遠しかったです」
「具体的なライフスタイルまでは考えていませんでしたが、移住を機に自分自身と向き合ってみようと思いました。東京にいると、友達に会いたい時には会えるし、物も溢れるほどに揃っているじゃないですか。でも、そういうものからふと離れてみて、自分にとって重要なものや大事にしたい軸は何なのか、じっくり考えてみたかったんです」
夫婦ともに勤務先は都内にあるため、通勤は電車とバスを乗り継ぎ片道およそ2時間の道のりとなる。移動距離が長く、家事育児もあるため相当なハードワークと思われるが……、毎日どんな時間割で動いているのだろうか? 以下、平日の麻衣さんのスケジュールである。
「家を建てる際、『絶対に柴犬が欲しい』と夫が話していました。それもあって並木道やこの土地の環境を魅力的に感じたんです。朝は特に空気が澄んでいますし、鎌倉まで続くこの並木道を歩いていると、30分もあっという間ですよ」
心にゆとりがありますね。僕より全然忙しいのに、まるであくせくしていない……。
「それはやはり、ここの景色が大きいと思います。リビングの窓は、逗子の景色を存分に楽しめるよう限界まで大きくしたんですよ。窓辺にいると四季が移り変わっていくのを日々感じることができます。3月頃になると、桜の木の枝先がピンク色に染まり、そろそろ蕾が開き始めるのが分かるんですよ。そして、花が散ったあとの新緑に覆われる桜も好きですね。東京で暮らしていた頃は、そこまで自然に思いを馳せるなんてこともなかったですから」
「最近はソファーの前で家族のんびり過ごすことが多いですね。平日はあまり一緒にいられないので、お休みの時は日の光を浴びて、風を感じながら団欒しています。夕方になったら近所の公園や、家から徒歩20分の海まで歩いたり。あとは、たまに車で城ヶ島公園や鵠沼海岸、三浦海岸、小田原、大磯など、子どもと犬が遊べる場所に繰り出します」
「あと、産休中はよく都内の友人たちを招いてホームパーティーを開いていました。東京の人にとっては小旅行気分で来られる、ちょうどいい距離感みたいで(笑)」
「そんなことないですよ。通勤中や日々の生活で小さな幸せを感じていますから(笑)。例えば、バス停でバスを待っている間に、風にのってきた緑のにおいを感じられた時、晴れた日の犬の散歩中に富士山を拝めた時、『あぁ〜幸せだな』ってしみじみ思います。それに何といっても、空気の美味しさ。これを毎朝のように感じられる喜びは、何にも代え難いですね」
「毎日都内に通っているからわかるんです、空気が全然違うなってことが。電車が逗子に近づくにつれて心が安らいでいきますし、着いた時に逗子の空気を吸うと、ほっと休めるんですよね」
「むしろ電車に乗っている時間が長い分、オンとオフをしっかりと切り替えられているんじゃないかなと思います。東京は気持ちをオンにするのにすごく適した場所ですが、その反面、なかなかオフに戻すのが難しいですよね。だから、長い通勤時間の中でゆっくりと気持ちを整え、やがて逗子の景色に出迎えられてオフになる。そんなメリットもあるのかなと。それに、長距離だからこそ、家に帰ってきた喜びがより強く感じられるような気もします(笑)」
「そうですね。今は仕事のストレスもほとんど感じなくなりました。昔はよくこぼしていた愚痴も、ものすごく減りました。おそらく、人って完全にオフになると、オンで起きたことを忘れてしまうんですよね。だから、愚痴をこぼす以前に思い出さないんですよ。仕事の嫌な事を引きずらなくなったのは、逗子に流れるゆったりした空気のおかげです」
自然環境やのんびりした時間、それ以外にも、逗子の良さは語り尽くせないという麻衣さん。特に魅力に感じているのが、人と人との近さ。移住から3年が経った今では、ご近所さんともすっかり親しくなったそうだ。
「もともと人とふれあうのが好きなので、毎朝の何気ないコミュケーションが楽しいですね。東京にいた頃はご近所づきあいも希薄だったように思いますが、ここはとても濃いんですよ。引っ越してきた当初もお隣さんに地域の事を教わったり、たまにお野菜をいただいたり、ずっと助けられてきました。人に恵まれたのも、この土地を選んで良かったと思えた理由の一つですね」
「大きな商業施設はないですが、代わりにコーヒーショップやパン屋など地元に愛されているお店が多いんです。私も毎週末通っていますし、特にお肉屋さんには本当にお世話になっています。コロッケをサービスしてくれたり、私のつわりがひどかった時にはメニューにない『餃子』や『ひじき』を夫用に作ってくれたり。昔から住む方が多いエリアなのに、移住者の私たちを優しく受け入れてくれました」
「ゆとりがあるだけじゃなくて、このエリアに住む方々ってみなさん明るくて、活動的なんですよね。流行ではなく、各々が自分たちの価値観に合ったものを選んで生活している気がします。しかも、それを強要するわけでもなく、こちらが知りたい時に優しく教えてくださる。距離感は近いけど圧を感じない、コミュニケーションが絶妙なんですよ」
ちなみに、麻衣さんは2時間近くある通勤時間を使って資格を取得したそうだ。そこで、電車内で有意義な時間を過ごすためのコツを聞いてみた。
「逗子駅は始発列車なので座ることができるんですよ。始発列車でなくても、逗子駅では4車両が連結するため、一本待てば確実に座れます。次の駅の鎌倉以降は座ることが難しいので、たった一駅の差が大きかったですね」
「仕事や読書、SNSなど様々なことをしています。曜日によってやることを変えたりもしますね。週に2時間だけでも続けると、結構な蓄積になっていくんですよ。通勤時間を使った勉強で、アロマの資格を取得したこともあります。
ただ、何が何でも有効利用しようというわけではなくて、行きか帰りのどちらかはぼーっと過ごして頭を空っぽにしています。瞑想に近いんですけど、何も考えない時間っていうのは脳に良い影響を与えるらしいんですよ。だから音楽を聴いて、リラックスするようにしていますね」
「私の場合は、スマホを眺めているだけだと『虚しさ』や『不安』を感じてしまうんです。それに、毎日同じことをしていると飽きますし、疲れてしまう。だから、なるべくバランスよくいろんなことをやるようにしていますね。ちなみに去年は編み物に、先月はNetflixにハマっていました」
「意識すれば、いくらでも楽しめると思うんです。たまに、東京駅で牛タンとノンアルコールビール買って、ゆっくり味わいながらグリーン車で帰るんですけど、最高ですよ。とにかく最近はやりたいことが多すぎて、2時間でも足りないと思っています」
「一度ここでの暮らしを知ってしまったら、いくら通勤に便利でも東京に戻ろうとは思いません。景色をただ眺め、街の空気を吸い、地域の方々と交流する、これだけで人は十分幸せなんだと。そう気づかせてくれた逗子の街に感謝ですね」
Relife mode編集部
text:小野洋平(やじろべえ)
photo:藤本和成
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