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成年後見人とは?役割やなれる人、手続きについてわかりやすく解説

成年後見人という言葉を聞いたことがあるでしょうか。認知症などで判断能力がなくなったときに、預貯金や不動産などの財産管理、病院での手続きや支払い、医療や福祉サービスの契約などの身上監護を、本人に代わって行うことができる人を成年後見人といいます。 この記事では、成年後見人が必要となる場面や、成年後見制度を利用するための手続きについて紹介します。また、知っておくべき概要や、利用方法について解説しますので参考にしてください。

成年後見人とは判断能力を欠く成年を支援する人のこと

成年後見人とは、認知症や知的障害などで判断能力を欠く成年を、「成年後見制度」という制度にもとづいて、支援する役割を担う人のことです。なお、2022年4月1日から成年は18歳以上となっています。
成年後見人は、例えば、預貯金や不動産などの「財産管理」、あるいは契約の締結・取り消しといった「身上監護」を本人に代わって行う役割を担います。それぞれの役割や、成年後見人が必要になる場面は次のとおりです。

成年後見人の役割は財産管理と身上監護

成年後見人の役割は、大きく分けると財産管理と身上監護の2つです。
財産管理は、預貯金の管理、年金を含む収入支出の管理、所有不動産や証券類の管理、遺産分割協議などの相続手続き、確定申告や納税などが該当します。

身上監護は、本人の生活や健康の維持、療養などに関する事柄のサポートです。介護・福祉サービスの利用や施設入所の契約、病院での手続きや支払い、賃貸借契約など住まいに関する手続きなどが該当します。ただし、事実行為は含まれません。事実行為とは、食事や排泄などの介助や清掃、送迎、病院への付き添いといった身の回りの世話のことです。

このほか財産管理と身上監護に加えて、成年後見人は家庭裁判所に対して職務内容の報告をすることが義務付けられています。

成年後見人が必要になる場面とは

成年後見人が必要になる場面として、具体的には次に挙げるような状況が考えられます。

・不利益な契約であることがわからないまま契約をしてしまうなど、悪質商法の被害に遭うおそれがある
・判断能力が衰えてきて、何度も同じものを購入したり、個数を間違えたり、不要な契約をしたりしている
・キャッシュカードの暗証番号を忘れるようになり、一人でいろいろな手続きをするのも困難になってきた
・遺産分割協議を進めたいが、本人が判断できない
・本人の施設入所費用を捻出するため、不動産の売却をしたい

成年後見制度とは

成年後見制度は、認知症・知的障害・精神障害などの理由で、一人で不動産などの管理が難しい人、一人で介護施設への入所などの契約に不安や心配のある人が、財産の管理や法律行為を行う際に不当な不利益を被らないようにするために法的に保護し、支援するために制定された国の制度です。
成年後見制度は、1999年の民法改正で導入され、2000年4月1日より施行されました。

法定後見制度と任意後見制度の違い

成年後見制度には、法定後見制度と任意後見制度の2種類があります。
両者の違いは、本人(成年被後見人)の判断能力がすでに不十分な状態になっているか、まだなっていないかという点です。詳しく見ていきます。

法定後見制度

法定後見制度は、本人の判断能力が不十分なときに、申し立てにより家庭裁判所が選任した成年後見人などが、本人を支援する制度です。法定後見はさらに、後見、保佐、補助の3つの類型があり、それぞれ選任された成年後見人、保佐人、補助人に与えられる権利があります。類型と権利および対象となる人は以下のとおりです。

・後見(代理権・取消権)

判断能力が欠けているのが通常の状態の人(多くの手続き・契約などを一人で決めるのが難しい人)

・保佐(同意権・取消権)

判断能力が著しく不十分な人(重要な手続き・契約などを、一人で決めるのが心配な人)

・補助(一部の同意権・取消権)

判断能力が不十分な人(重要な手続き・契約などの中で、一人で決めることに心配な部分がある人)

任意後見制度

任意後見制度は、将来、判断能力が不十分となったときに備えて、本人が任意後見人を選んでおくという制度です。本人が元気で判断能力があるうちに、みずから任意後見人を指名して、公正証書で任意後見契約を結びます。
ただし、法定後見人とは違い、任意後見人には取消権が与えられません。被後見人が不要な契約などをしてしまった場合に取り消すことができないということです。もし、取消権が必要な場合は任意後見制度を終了し、改めて法定後見制度の利用が必要です。

成年後見制度と家族信託の違い

成年後見制度の利用とは別に、最近は家族信託(家族信託契約)という仕組みを利用する人も増えています。
家族信託とは、自分で財産を管理できなくなったときに備えて、保有する不動産や預貯金を家族に託し、管理・処分を任せる方法のことです。任意後見制度と似ており、家族との信託契約で財産管理の権限を与えます。
家族信託契約では、本人に判断能力があるうちに当事者間で契約を締結することが必須条件となっています。また、財産を管理する人(受託者)は、裁判所ではなく本人(委託者)が選任します。ただし、家族信託契約では財産管理に特化した契約なので、本人の身上監護を行うことはできません。

まだ元気なうちに将来に備えて財産管理対策や相続対策をするのであれば、任意後見制度以外に家族信託という選択肢もあるということを覚えておきましょう。

成年後見人になれる人、なれない人

成年後見人になれる人かどうかは、任意後見制度か法定後見制度かで傾向が異なります。
任意後見制度を利用する場合は、原則として、成人であれば誰でも成年後見人になることが可能です。親族がなるケースが多いですが、本人が指名し、相手が受任すれば友人・知人が成年後見人になることもできます。このほか、弁護士や司法書士などの専門家を選べます。

<成年後見人になることが多い人(または組織)>

・本人の親族(配偶者、子、兄弟姉妹など)
・弁護士
・司法書士
・社会福祉士
・税理士
・市民後見人(市民後見人養成の研修を受講済みで、市民後見人の登録をしている人)
・社会福祉協議会

一方、法定後見制度を利用する場合は、親族であっても成年後見人になれないことがあります。
通常、本人の周囲の人が家庭裁判所に申し立てをし、候補者がいればそれを考慮に入れて審議が行われますが、例えば親族間の意見対立がある場合などは、親族の選任が認められず、親族以外の人が成年後見人に選ばれる可能性が高くなります。なお、親族でも成年後見人になれない人は次のとおりです。

<親族でも成年後見人になれない人>

民法第847条には親族が成年後見人になれないケースとして以下の5つが規定されています。
・未成年者
・家庭裁判所で解任された法定代理人、保佐人、補助人
・破産者
・被後見人(本人)に対して訴訟をしている人、または訴訟をした人、並びにその配偶者および直系血族
・行方不明者

親族が成年後見人になるメリット・デメリット

身近で、本人のことをよく知る親族が成年後見人になることにはメリットが多く考えられますが、一方でデメリットもあります。それぞれ説明します。

・メリット

配偶者や子供など、信頼できる親族が成年後見人になり、財産管理や身上監護をしてくれれば、被後見人(本人)自身が安心感を得られるはずです。大事な財産を預ける際の抵抗感も少ないですから、最も大きなメリットといえます。
また、専門家が後見人になる場合と比べてコストも抑えられます。親族であっても報酬を請求することはできますが、実際には無償で行うケースが少なくありません。理由としては本人の財産が減ることや、本人が亡くなるとその親族が相続人となるケースが多いこと、報酬請求の手続きが煩雑なことなどが挙げられます。

・デメリット

親族が成年後見人になると、一般の人には遂行するのが大変な作業があり、負担が大きくなる可能性があります。財産管理や身上監護に関わる作業は簡単なものばかりではありません。家庭裁判所に提出する資料の作成や報告などの事務作業も煩雑です。
また、親族間の関係が良くない場合は、主に財産管理を巡ってトラブルが発生するケースもあります。いったんこじれると深刻な対立に発展することもあり、デメリットにつながります。

親族が成年後見人になる場合の注意点

親族が後見人になる場合は、本気で親身になって判断力が衰えた本人を助けてあげられるかが重要です。特に、次のような注意点が挙げられます。

後見人になっても財産を自由に扱えるわけではない

成年被後見人の財産は本人のためにしか利用することはできません。また本人のためであっても、自宅の売却などは家庭裁判所の許可を要する事項となります。
成年後見人として管理を任されていた財産を私的に使い込んだ場合、親族でも刑法第253条の「業務上横領罪」に問われます。

後見人を途中で辞めることは原則としてできない

一度、成年後見人となったら、途中で勝手に辞めることはできません。
辞任するには家庭裁判所に相談し、辞任許可の申し立てをする必要があります。その場合は、後見人が病気などにより業務を継続できなくなったなどの合理的理由が求められます。

専門家が成年後見人になるメリット・デメリット

親族などの一般人が成年後見人になると、途中で辞めることができなくなるなど負担が大きいため、専門家に任せるというのもひとつの方法です。弁護士や司法書士などの専門家が成年後見人となる場合のメリットとデメリットも押さえておきましょう。

・メリット

専門家が成年後見人になる場合、第三者的立場から、専門的な知識にもとづいて財産管理などが適切に行われる点が、最も大きなメリットといえるでしょう。後見業務についてノウハウを持つ専門家であれば、手続きもスムーズで、親族にもわかりやすく状況説明などをしてもらえます。
また、法的な知識を有していることから、不要な契約なども防げます。

・デメリット

専門家を成年後見人にする場合のデメリットとしては、月額数万円の報酬が発生するため、本人の財産が目減りしてしまうことです。また、生活費の引き出しや日常的な支払いも専門家を介して行うことになるなどの不便さも生じます。

成年後見制度(法定後見制度)の手続き

成年後見制度を利用するにはどのような手続きをすれば良いのかをまとめました。ここでは法定後見制度を利用し、家庭裁判所に申し立てをするときの手続きの流れを中心に見ていきます。

法定後見制度による成年後見人選任手続きの流れ

家庭裁判所に申し立てをする流れは次のとおりです。申し立てから成年後見人選任までは3~5ヵ月かかります。

1. 申し立て(申立)

申立人が家庭裁判所に対する手続きをします。申し立ては本人、または本人の4親等以内の親族(配偶者、子供、孫、両親、兄弟姉妹、従兄弟、甥、姪など)が行うのが一般的です。

2. 家庭裁判所による審理

家庭裁判所によって申立書類の調査や、申立人・本人・後見人などの候補者の調査、親族の意向照会などが行われます。

3. 家庭裁判所による審判

審判が確定すると家庭裁判所が法務局で後見登記を行い、後見人に登記完了の通知が届きます。

4. 成年後見人登記

成年後見人登記がなされたら、後見人としての仕事が始まります。同時に、後見人に選任された人は、財産目録や年間収支予定表を作成し、家庭裁判所に提出します。

成年後見人の申し立てに必要な書類

家庭裁判所の申立書、必要書類の一覧表などは、各地の家庭裁判所のウェブサイトから入手できます。必ず申し立てをする裁判所のウェブサイトなどで確認してください。
例えば、本人(被後見人)に関する書類としては、次のものが必要です。

<本人に関する必要書類例>

・戸籍謄本・住民票または戸籍の附票
・診断書(家庭裁判所に様式あり)
・登記されていないことの証明書
・医学鑑定依頼文書(必要な場合。家庭裁判所が医師に依頼する)
・後見開始申立書(家庭裁判所に様式あり)
・本人の状況照会書(家庭裁判所に様式あり)
・親族関係図(家庭裁判所に様式あり)
・本人の財産に関する資料(不動産登記事項証明書、預貯金・有価証券の残高がわかる書類など)
・本人の収入・支出に関する資料(年金額通知書、そのほかの収入資料など)

後見人候補についての必要な書類は、住民票や候補者に関する照会書(家庭裁判所に様式あり)などがあります。
膨大な量があり、また自分で記入したり、記入を依頼したりするなど大変煩雑です。

最初は「中核機関」などに相談するのがおすすめ

成年後見制度について必要書類が多く、最初に何をしていいのか迷う場合、まずは住んでいる市区町村の中核機関、あるいは地域包括支援センターや社会福祉協議会に問い合わせてみましょう。
中でも中核機関は、成年後見制度の相談窓口としての役割を担う機関です。専門家とのマッチングや、各地域で関係機関と連携するコーディネーターとしての活動などの各種取り組みをしています。

成年後見制度にかかる費用

成年後見制度を利用する際にはどれくらい費用がかかるのでしょうか。ここでは主に法定後見制度での費用について紹介します。法定後見制度の場合、成年後見人の申し立てにかかる費用、成年後見人への基本報酬、そして、専門家に選任手続きの代行を頼む場合の報酬などが必要になります。

成年後見人の申し立てにかかる費用

成年後見人の申し立ての際には、家庭裁判所に対して収入印紙で申立手数料を支払います。印紙代は3,400円(申立1件につき申立手数料800円+登記手数料2,600円)です。
また、書類の送付などに必要な郵便切手を予納しますが、金額は3,000~4,000円程度になります。
申し立て関連の費用の中でも高額なのは、医学鑑定依頼文書にかかる費用で、本人の判断能力に関して医師に依頼する鑑定料です。通常、5万~10万円程度かかります。ただし、裁判官が鑑定は必要なしと判断した場合は不要となります。
一方、医師による診断書は必ず添付しますが、こちらは数千円程度です。

成年後見人への基本報酬

司法書士などの専門家に成年後見人を依頼すると、後見人への報酬が必要です(親族の場合も、親族が報酬付与の申し立てをすれば報酬が発生)。
この報酬額は家庭裁判所の裁判官が決めます。報酬額の目安としては、次のとおりです。
管理財産額が1,000万円以下の場合で月額2万円、管理財産額が1,000万を超え5,000万円以下で月額3万~4万円、管理財産額が5,000万円を超える場合は月額5万~6万円です。
任意後見制度の場合、後見人への報酬額は話し合いで自由に決められます。ただし、任意後見制度では必ず任意後見監督人が就き、こちらはほとんどの場合、専門家が選任されます。その報酬額は月額1万~3万円程度が目安です。

※2020年大阪家庭裁判所・大阪家庭裁判所堺支部、岸和田支部「成年後見人等の報酬額のめやす」

専門家に選任手続きの代行を頼む場合の報酬

成年後見人の選任手続きをすべて弁護士や司法書士に代行したい場合、10万~30万円程度かかるのが一般的です。
任意後見制度の場合は、任意後見契約を締結するための公正証書の作成の依頼で10万円程度、任意後見監督人の選任申し立ての手続きの依頼で20万円程度が相場となるでしょう。

家の建て替え・リフォーム・売買をするときに注意したい成年後見制度

成年後見人や成年後見制度について説明してきましたが、実際にこの制度を利用しているとさまざまな疑問や問題が出てくることが想定されます。例えば家の建て替えやリフォーム、あるいは売買を検討しているとき、所有者が成年被後見人だったら、どのような対応が必要になるのか…といった疑問です。
不動産関連の疑問に対し、三井不動産グループは個別の状況に応じて、最適なプランをご提案いたします。住まいと成年後見人に関することなど、いつでもお気軽にご相談ください。

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三井不動産グループは、不動産を「売りたい」「貸したい」「資産運用したい」などのご要望に応えます。
監修

森川 弘太郎 弁護士(第二東京弁護士会)

東京弁護士法人 代表弁護士。
IT法務、エンターテインメント法務、フランチャイズに特化した企業法務専門の法律事務所にて勤務した後、東京都内に3拠点の法律事務所(新宿東口法律事務所、立川法律事務所、八王子法律事務所)を構える東京弁護士法人を設立。東京弁護士法人は弱点のない総合型法律事務所を目指し、各弁護士が個人向け業務・法人向け業務、民事事件・刑事事件問わず横断的に案件を扱いながら総合力を高めつつ、弁護士によって異なる得意分野を持つことで専門性もあわせ持つ法律事務所となっている。

監修

関口 勇太 弁護士(第二東京弁護士会)

立川法律事務所(東京弁護士法人本部)事業部長弁護士。
大学卒業後に大手テニススクールにてテニスコーチを務めながらテニス選手として活動し、その後、弁護士を志す。現在は、地元である東京都立川市に拠点を構える立川法律事務所(東京弁護士法人本部)にて、事業部長弁護士として、個人向け業務から法人向け業務まで、民事事件から刑事事件まで幅広い業務を担いながら、さまざまな分野・業種の企業法務を多く取り扱っている。

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