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「カーンカーンカーンカーッ……」
やがて電車が通り過ぎ、踏切が開く。
向こうから渡ってくる女性の自転車や、男性の真っ白なスニーカーが太陽の日差しを反射させ、私の視界をキラキラとくすぐる。
この街を歩いていると、 “陽だまりの中”にいるようななんとも言えない幸福感に満たされる。
取材日はたしかに良い天気だったけど、私がその感覚を覚えた理由はきっと他にありそうな……そんな気がする。
駅名:東急池上線「久が原」
久が原駅があるのは東京都の大田区。五反田と蒲田を結ぶ東横線池上線で蒲田から4駅の場所にあります。地上駅で、ホームも木製のベンチも何とも味わい深い雰囲気。
電車を降りて改札を抜けると、東西にそれぞれ商店街があります。環八通りに向かって西に延びるのが「久が原駅前通りすえひろ商店会」。スーパーマーケットやドラッグストア、飲食店や病院、学習塾など、さまざまなお店が揃った商店街です。
そして、駅から東に延びるのが「ライラック通り久が原」。距離としてはこちらの商店街はすえひろ商店会よりも長く、住宅に溶け込むように点々とお店が並びます。
2つの商店街を端から端まで歩き、これなら日常生活に必要なものはだいたいなんでも揃うなと思う反面、他の街にはない独特の空気感が。その空気感の正体を考えながら商店街を歩いていると、他の街にはたくさんある「あるもの」がないような……。
2つの商店街をじっくり見渡して、他の街にある「あるもの」がないことにはっきり気がつきました。
スターバックス、ドトール、タリーズ……
マクドナルド、ロッテリア、モスバーガー……
吉野家、日高屋、富士そば……
この街には大手飲食チェーンのお店がひとつもありません。
見慣れたチェーン店がひとつもない久が原の町並みは、独特の一体感があり、雰囲気もおっとりおだやか。
街ゆくお店の店主同士が笑顔で挨拶を交わしている様子が印象的で、喧騒という言葉とはかけ離れた空気が流れています。
ライラック通りから外れて住宅地の中に入ってみると、道は碁盤目状になっていて、閑静な住宅街が広がります。
この辺りは「久が原台」という台地に位置し、周辺は起伏に富んだ地形。
周辺に高い建物は見当たらず、空が広々と見渡せます。
また、久が原は田園調布や山王と並ぶ邸宅街として知られる場所。有名人なども住んでいるそうですが、意外と庶民的なマンションもあり、敷居が高い……という雰囲気はありません。
すえひろ商店会側は、ライラックを抜けた住宅街とはまた違った雰囲気。
寺院や緑が多く、地元に住む人の憩いの場となっています。
ライラック側、すえひろ側でそれぞれ色は違うものの、どちらも静かで落ち着いた雰囲気が印象的。
都心部で感じる「常に誰かに急かされているような圧迫感」が微塵もなく、ゆっくりと自分のペースで街を眺められました。
ライラック通りを歩いていると、信号の向こうに素敵なお店を発見。
ここは2000年にオープンしたビストロ「キャトル」です。
ランチ時には女性客でいっぱいになるという人気店ですが、店長の阿部信行さんに話を聞くと「まあ、そうかな?」とあまり気にしていない様子。ランチがてら、この街の魅力について聞いてみました。
(※以下、「」内は阿部さんのセリフです)
――びっくりしたんですけど、久が原ってカフェとかハンバーガーショップとかのチェーン店が一軒もないですよね。
「そうだね。チェーン店はお隣の駅の御嶽山とかにはあったんじゃないですかね。久が原はそういうお店がないから、なんていうか“程よい感じ”でいいんですよ。お店も商売っ気がないっていうか(笑)。いい意味でね。」
――それは商店街ですごく感じました。
「それでも最近は商店街が活気付いてきて、色々イベントを企画しているんですよ。5月の『ワゴンセール』はかなりたくさんの人が来てくれましたよ。もしかすると注目されているのかもしれませんね。」
――お店が今よりももっと忙しくなったらどうしますか?
「いや……うちは今くらいで充分ですよ……アハハハ(笑)」
私が久が原で感じた“陽だまりの中”にいるような幸福感。
それは、邸宅街ならではの街ゆく人の心の余裕やチェーン店が存在しないのんびりとした雰囲気から生まれたもの。
効率ばかりを追い求めると、たしかに便利にはなるけれど“非効率の中にある余裕や豊かさ”がこぼれてしまう。
人にも街にも多くを求めない、だから“程よい”。
久が原という街から、そんな暮らしにとってなくてはならない大切なことを教わった気がする。