&Stories by MITSUIHOME

フランスからの暮らしのNEWS〈前編〉

世界中の女性が憧れるパリの暮らし。歴史的な美しい街並みに、花が溢れ、極上の料理やスイーツが堪能できる街。そのエレガントさに皆が魅了されてきました。今回は、パリで、フランスを代表する老舗リネンブランド「ガルニエ・ティエボー」会長夫人のマイリス・ド・モンクロさんのご自宅に伺い、前編でインテリアについて、また後編ではふだんの暮らし方や、ティータイムの楽しみ方、フラワーコーディネート術について語っていただきました。

アールヌーボー、そしてインテリアとのめぐりあわせ

―マイリスさんのお住まいの場所や周辺の環境など、ご自宅について教えてください。
「住まいがあるブーローニュはパリの西16区に隣接している街です。パリ中心部に繋がるメトロがあり、便利であると同時に、郊外ならではの豊かな緑があり、とても住みやすい地域です。この辺りは、魅力的な建築がずらりと並ぶ閑静な住宅街で、乗馬やテニスなどのスポーツをする環境が整っているところも心ひかれるポイントです。以前からブーローニュには住んでいましたが、2001年にこのアールヌーボー建築の一軒家に出会い、転居しました。」
ブーローニュはパリ屈指の高級住宅街。ブーローニュの森、スタンド・ローラン・ギャロス(全仏オープンの会場)、パリロンシャン競馬場(凱旋門賞)、ルイ・ヴィトン財団美術館などがあることで知られています。

193_content_01.jpg

マイリスさんは、大学で内装建築を学び、卒業後は広告代理店に入社。アートディレクターとして、アーティストのカタログ制作を長年手がけていました。
「結婚後も仕事を続けていましたが、フルタイムで責任ある仕事を持ちながら家庭でも理想の妻であり母であることは、簡単なことではありません。結婚して5年ほどたったとき、一生懸命になりすぎている私の姿に気づいた夫が『仕事を辞めるという選択肢もあるんだよ』と言ってくれ、よく考えた末、仕事をやめて専業主婦という新しいライフスタイルを始めることにしました。以来、いわゆる職業には就いてはいませんが、この家の内装と手入れは全て私がしており、これはこれでなかなかの大仕事です。」
その内装は周囲からも大好評で、友人知人がインテリアを変えるときには、マイリスさんに相談されるそうです。
今後はインテリアのアドバイザーとしてキャリアをスタートすることになるのでは?という問いには、
「個人的には、インテリアは最終的に自分の『好き』を優先してこそ満足できる仕上がりになるものだと思うので、職業にできるかどうかは未知数ですね」と、笑顔で答えられました。

アールヌーボー建築の自宅のコーディネート

マイリスさんのお宅は、元々はとある生物学者の自宅として1925年に建てられたものだそう。
すでに1世紀近くを経た、歴史ある建物です。19世紀末にヨーロッパを中心に起こった芸術運動「アールヌーボー」の系譜を汲むもので、マイリスさんのご自宅にも、曲線を取り入れた特有の優美なスタイルが垣間見えます。

―ご自宅のチャームポイントはどんなところですか。
「なんといっても、美しいアールヌーボー建築であるということですね。例えば、1階から2階への階段の小窓や欄干の装飾にはアールヌーボー後期の建築ディテールが見られ、これに惚れ込んでこの家の購入を決めたほど重要なポイントです。窓から差し込む光で影が落ちる様子が魅力的なのです。」

193_content_02.jpg

部屋やコーナーごとに、チャームポイントはたくさんあるそうで、マイリスさんはそれぞれの空間に役割を持たせ、コーディネートしています。

「玄関ホールは、外から帰ってきてすぐにくつろいだ気分になれるように家具を配置しました。ソファは座ってブーツを脱いだり、コートやバッグを置いたりといった使い勝手をよくするため。ローテーブルは、小物や花を飾って空間の演出に生かすために置いています。お客様をお迎えすることも考えて、サロン風の空間に見えるようコーディネートしました。」

193_content_03.jpg

美術館を思わせるような、見事なアールヌーボー建築の螺旋階段を上がって2階へ。

「2階のサロンは、暖炉の間と角部屋が一続きになっています。ティータイムを過ごすのは、ローテーブルのある暖炉の間。インテリア小物にはアンティークを取り入れつつも、全体の調度品はモダンに統一して、アートも現代アート作家の作品を合わせています。」

193_content_04.jpg

開放的な明るいダイニングルームは、マイリスさん一家を訪ねてくるメキシコからの友人を迎えるためにセッティングされていました。
「料理はいつもフランスの伝統的な料理を作ります。テーブルクロス、ナプキンはガルニエ・ティエボーのもの。テーブルクロスは撥水加工をした特殊なリネンを使っています。
また、キッチンでは料理を作るだけでなく、朝食や軽食を取ることも多いので、ここにも花とアートは不可欠。絵画を飾る際は、部屋ごとにアーティストを揃えるように心がけています。」

193_content_05.jpg

193_content_06.jpg

同じフロアにあるご夫妻の寝室へ。
「寝室は、壁も温かみのあるブラウン系のグラデーションで、より赤みの強いトーンを選んでいます。寝室には大きなアートは飾らず、その代わりにアンティークの大きな鏡を置きました。」

193_content_07.jpg

しっとりと落ち着いた色合いが、歴史ある建物によく調和し、マイリスさんの繊細な心配りがうかがえます。

普段使いにもおもてなしにも活躍するリネン

―世界的なリネンブランド「ガルニエ・ティエボー」のこと、そして暮らしの中でのリネンの使い方を教えてください。
「ガルニエ・ティエボーは、1833年に創業したジャカード織り(フランスの伝統的な織物)の代表的なブランドです。無地、マルチカラーの織り、プリントなど、あらゆるスタイルから選べるのが魅力で、フランスの宮殿や大使館、一流ホテルや三ツ星レストランでも使用されています。
自宅では、カーテンやソファの生地など大きいものから、テーブルクロスやバスラインまで幅広く使っています。例えば、私たち夫婦の寝室は落ち着いた赤系、息子の寝室はグリーンのプリントリネンを使い、雰囲気を変えています。」

193_content_08.jpg

「個人的にはモダンなデザインが好みで、アンティークのインテリアにもモダンなアイテムをよく合わせます。テーブルセッティングも折衷様式。その方が現代の生活になじむし、バランスよく素敵にまとまると思うのです。」

193_content_09.jpg

古いものと新しいものを必ずミックスして自分らしく

―マイリスさんのお宅で、お気に入りのコレクションや家具があれば教えてください。
「これを集めているというコレクションはありませんが、次の世代にも引き継いでいきたいと思うアイテムはあります。まず、そもそもこの家自体が歴史的な建物で、特に螺旋階段の小窓は宝物です。これにはルイユ・ド・ブッフと呼ばれる細工が施されているんです。家具では、マルケトリー(象嵌細工)のサイドテーブルと、家族から譲り受けた肘掛け椅子ですね。肘掛け椅子は、元の生地を気に入ったものに張り替えて使っています。サイドテーブルは19世紀のもので、とてもデリケートなので扱いには注意が必要ですが、新調したモダンな家具の中にこういったアンティークが加わるとインテリアに奥行きが出るので、新旧を必ずミックスする私のコーディネートでは重要です。」

193_content_10.jpg

193_content_11.jpg

マイリスさんの家は、アンティークと一緒に、アートや新しい家具もバランスよく配置されています。

「アンティークだけでなく、気に入ったものであれば、レプリカも使います。暖炉脇のコンソールテーブルは、古いものではないけれど、ここに引っ越す前から愛用している家具の一つです。アートは選ぶのが難しいですが、部屋に合わせて選ぶのではなく、気に入っているかどうかで選ぶようにしています。」

ほぼ1世紀を経てなお、ため息が出るような美しいアールヌーボーの建物に、卓越されたマイリスさんのセンスが息づく家。家業のジャカード織りのように、代々受け継がれてきた歴史という糸が、今の生活を温かくエレガントに織り成しているようです。
後編では、マイリスさんの日々の暮らし方やティータイムの楽しみ方、フラワーコーディネート術について伺います。

→後編へ続く

Maylis de Montclos
マイリス・ド・モンクロさん
パリでリネンのブランド「ガルニエ・ティエボー」や他のブランドを統括する会長夫人。
https://www.garnier-thiebaut.fr/

(取材/角野恵子 撮影/水島優)

記事を探す

読んで発見
すまいのヒント

読んで楽しい
くらしのコラム