いえ白書

日本各地の風土とともに。家を住み継ぐあれこれ

日本各地の風土とともに。家を住み継ぐあれこれ

親が大事に住んできた物件は、相続した後も長く住みたいもの。その気持ちは、今も昔も変わりません。火事や水害、豪雪など日本各地の風土に合わせ、先人たちが工夫を凝らした家を住み継いできた知恵をご紹介します。
なまこ壁(全国)
質実剛健な壁は、日本の建築を代表する建築工法のひとつ。
なまこ壁とは、蔵の壁などにあしらわれた幾何学模様の建築工法のこと。平瓦の四隅を釘で止め、目地と呼ばれる継ぎ目の部分に漆喰でかまぼこ型に高く盛り上げたもの。盛り上がった半円の部分が海鼠(なまこ)に似ていることから命名されたといわれる。その機能は雨風対策、防湿や防火など多岐にわたる。均整のとれた意匠は美しく、建物の風格を高く見せることから広く全国に普及した。
きざみ囲い(三重)
太平洋の強い雨風から家屋を守る町商人の知恵と財力。
天照大神を祀る伊勢神宮の膝元に位置する河崎は「伊勢の台所」とも呼ばれ、参拝客への物資が各地から集められていた。運搬された物資を川から直接運び込めるよう、川岸には貯蔵蔵が立ち並んだ。蔵はきざみ囲いという板壁で二重に囲われ、太平洋に面する地域特有の強い雨風の侵入を防いでいる。魚の油と煤が塗られたため壁は一面黒く、防虫効果と丈夫に長持ちさせる効果が期待された。伊勢参りに訪れる旅人たちと共に栄えた町の商人たちの財力と知恵あってこそのひと手間だ。
合掌造り(富山)
民間産業と豪雪地帯に住んだ先人の知恵が結集した世界文化遺産。
富山県白川郷、五箇山地方は特別豪雪地帯に指定され、過去には最高降雪量450cmの記録が残る。世界文化遺産に認定されたこの地域の家屋は、屋根の形状が手を合わせ、合掌する形に見えることから“合掌造り”と呼ばれる。傾斜が急な屋根は、雪が自重で落ちることを計算して60度の角度に設計された。また、雪の重さで一方向から強い加重がかかり、根元から曲がってしまうのを防ぐために、梁桁材にはあえて曲がった木を使用している。
水切り瓦(高知)
直接見えない家の内部にまで配慮した家人のおもいやり。
高知県室戸市は“台風銀座”と呼ばれるほど、大風雨が猛威をふるう地域。漆喰塗りの壁に直接雨水がかかるのを避けるため、水切り瓦を庇のように数段重ねた。漆喰は湿度が高いと湿気を吸い、乾燥している時には湿気を吐く性質をもつ。まるで呼吸をするように湿度調整をして家を守る一方、漆喰の内側の材木や土壁にまで水分が浸透するため、経年変化とともに内部が痛んでくる。そのため、水が吸収される壁面積を少なくするために、庇のように数段重ねた水切り瓦が採用された。直接目には見えない部分まで考慮した、先人から家への配慮だ。
石垣(沖縄)
涼をとりいれ、亜熱帯ならではの工夫を凝らした空間づくり。
竹富島の気候は本州と異なり、亜熱帯に属する。直射日光が強く、年間を通して平均風速およそ5m(秒)と強い風が吹くのが特徴。そのためこの島では、家の回りを石垣や防風林で囲み、勢力の強い台風にもあおられないように設計されている。加工していない珊瑚の石灰岩で形成された石垣と、フクギの防風林は強風の威力を弱めるだけではなく、強い日差しを遮り、屋敷内で心地よく過ごせる役割ももつ。

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