【私が長距離通勤をする理由 Vol.4】  〜楽しいこと以外なにもない、一宮町での暮らし〜

昨今は職場の近くに住む「職住近接」のライフスタイルが注目されているが、一方で、何らかの理由で長距離通勤を選んだ人もいる。高速バスや特急電車、なかには新幹線を使い、都内へ2時間近くかけて通勤する長距離通勤者たち。なぜ、そうまでしてそこに住んでいるのだろうか?単純にその街が好きということもあるだろうし、あるいは何かやむにやまれぬ事情、知られざるドラマがあるのかもしれない。

連載第4回目では、千葉県一宮町で暮らし、東京都内に勤務する土生康弘さんを訪ね、約2時間の長距離通勤と引き換えに手に入れた暮らしぶりを伺った。

■移住の理由はなんといってもサーフィン

九十九里浜に面した千葉県東部に位置する一宮町。昔から、サーフィンに適した良質な波に恵まれ、「サーファーの聖地」として親しまれてきた。近年では2020年東京オリンピックのサーフィン競技会場に決定したことで、国内外を問わず多くのサーファーが訪れている。9年前から一宮で暮らす土生さんもまた、移住の理由はサーフィンだったそうだ。

▲都内にある情報通信系の会社に勤めている土生さん

土生康弘さん(以下土生さん)「都内に住んでいた頃は、基本的に職場から近い街に住んでいました。ただ、どこに住んでいても週末は必ず海に行っていたんですよね。そんな時に、ふと『もしかしたらサーフポイントの近くでも住めるんじゃないかな』と思い、移住先を探し始めたのがきっかけです」

——なぜ、一宮町を選んだのでしょうか?

土生さん「私は15歳からサーフィンをはじめ、今までにいろんな海を見てきました。なかでも、一宮の海は年間を通して、サーフィンに適した波がコンスタントに来ており、ここは日本屈指のサーフスポットだなって思ったんです」

——サーフィンと言えば、湘南なども盛んだと思うんですが?

土生さん「たしかに、職場がある都内までの通勤圏内で調べると、候補地は湘南か一宮に絞られました。ただ、私の中では一宮での生活自体にも漠然とした憧れがあったんです。高校時代の先輩が一宮に別荘を持っており、よく遊びに来ていたことが影響しているんだと思います」

——いつ頃から移住を計画されていたんですか?

土生さん「これといった計画はしていないです。もともとは、なんとなく30歳の時に都内でマンションを購入しようと思っていました。しかし、東京の港区や品川区で探していたところ、駅前のマンションとなると6000万円は下らなかったんですよね。その時に『移住』の二文字が頭によぎったんです」

——都心暮らしの利便性を手放すことに抵抗はなかったですか?

土生さん「確かに、都内での生活は便利でした。でも、結局都内で家を購入しても、週末にずっと一宮にいるのであれば、いっそのこと海の近くに住んだ方が楽しそうじゃないですか? もちろん、平日の通勤はしんどいだろうなって心配や不安もありましたが、それよりも楽しみの方が圧倒的に強かったんですよね。そのため、私からしたら都内での引っ越しと何ら変わらない感覚で移住を決めることができました」

■憧れの地に建てたマイホーム

趣味のサーフィンを楽しむため、2011年に移住を決行した土生さん。一宮町での住居に選んだのは、海沿いや駅前の賃貸ではなく、注文住宅だった。マイホームを建てるという、思い切った決断に至った理由は……?

▲土生さん宅。サーフィン後は外からお風呂に入れるようになっている

——なぜ、賃貸ではなく、注文住宅を選んだんですか?

土生さん「おそらく結婚をしていたり、子どもがいる家庭であれば、家族の理解や金銭面など、様々な問題が出てくると思います。しかし、私の場合は独身だったので、身軽に実行できたことが大きかったです。『とりあえず、やってみよう!ダメだったら売ればいい!』それぐらいの考えだったんですよね」

——思い切った決断ですね。こちらはいつ頃、建てられたんですか?

土生さん「2010年に土地を購入し、2011年に家が完成したタイミングで引っ越してきました。その後、2014年の結婚を機に妻も住むようになりました」

▲庭から海が見えるのがお気に入り

——当時から、この辺は住宅街だったんですか?

土生さん「いえ、当時はあまり家が建っておらず、空き地が多かったです。でも、オリンピックの会場に決まってからは、ものすごく人気エリアになりましたね。多分、価格も倍くらい違うんじゃないですか(笑)?」

——家を建てる際にこだわったところはありますか?

土生さん「テーマとしては、みんなが気軽に来られる家にしたかったんです。だから、リビングは最大限に広げ、キッチンには対面のカウンターを付けました。あとは、明るい家を目指しました。全体的に白を基調とし、窓もたくさんつけることで光を多く取り入れる設計にしています。実は、この家は私が設計したんですよ」

——そうだったんですね、すごい! ちなみに、独身時代に建てられていますが、結婚生活も視野に入れて設計されたんですか?

土生さん「もちろん、結婚してからの生活は考えていました。ただ、今2人の子どもがいるんですが、当初子どもは1人の想定で設計をしていたので、これからは狭くなるんですよね(笑)。なので、ゆくゆくは庭の空いてる土地に増築をしたいと思っています。そして、いずれは私の趣味を詰め込んだ『ガレージハウス』も作りたいと企んでいます。サーフィンボードや車、バイク、自分の好きなモノに囲まれた空間って最高じゃないですか」

■長距離通勤を続ける土生さんの1日

土生さんの通勤時間は片道およそ2時間。通勤だけを考えても起床時間は早くなりそうだが、土生さんの朝はサーフィンから始まる。気になる1日のスケジュールを見ていこう。

▲土生さんのサーフィンボード。波やコンディションによって使い分けるそう

——土生さんの平日の流れを教えてください。

土生さん「子どもが生まれてからは、サーフィンは週に1、2回しか行けていませんね。サーフィンをする場合、夏は4時起き、冬は陽が遅いので5時半には起きています。また、駅までは徒歩で15分ほどです」

【冬にサーフィンをしてから出社する場合】

5:30 起床
5:40 サーフィン開始
7:40 サーフィン終了
8:20 自宅を出発
8:33 上総一ノ宮駅(わかしお4号)を出発(※夏は7:53のわかしお4号で出社)
9:34 東京駅に到着
9:50 新橋のオフィスに到着
勤務
21:40 新橋のオフィスを出発
22:01 東京駅(わかしお23号)を出発
23:02 上総一ノ宮駅に到着
23:15 自宅に到着
25:00 就寝

土生さん「通勤時間は乗る電車にもよりますが、1時間半〜2時間です。また、特急列車『わかしお』に乗れなくても、通勤快速は上総一ノ宮駅が始発のため100%座れるので快適です。ネックと言えば、新橋駅の終電が早いこと。上総一ノ宮駅まで行く電車は22時33分発が最終ですから」

——当初、この生活リズムに慣れるまでは辛くなかったですか?

土生さん「15歳からサーフィンしていることもあり、昔から朝は強いんですよ。だから早起きは全然、苦ではなかったです。ちなみにサーフィンをしない朝でも、だいたい6時には起きています」

——でも、なかなか都内での会食や飲みには行けないですよね?

土生さん「終電に間に合わない時は、都内に泊まればいいと思っています。とはいえ、都内で飲むことも激減しました。以前は週5日で飲むのが当たり前でしたが、今は月1回ほど。正直、都内でダラダラと飲むことに飽きちゃったんですよね。お金も使いますし(笑)」

——移住する際、上司や同僚の方の反応はいかがでしたか?

土生さん「当時は仕事が一番、忙しい頃だったので『片道2時間、大丈夫?』とか『なんで、そんな遠いところに住むの?』ってよく聞かれてましたよ。個人的には会社に行けなくなっても、それはそれで仕方ないかなって(笑)。決してサボるとかではなく、会社に行かなくても仕事ができる環境下だったんです。業務に支障をきたさなければ、文句は言われないだろうなって思っていました」

——働き方は移住前と後で変わりましたか?

土生さん「最近になって、フレックス制度やテレワークが増えてきていますが、私は今でも出勤する方が多いです。10年前には、8時からの会議のために、6時前に家を出ることも普通でしたから、今は随分と通いやすいですよ」

——通勤電車内では、どのように過ごされていますか?

土生さん「昔は電車の中で資料を作ったり、仮眠していましたね。ただ、10年前に比べて、ネットのスピードが速くなったので、今は『Netflix』、『Hulu』、『YouTube』などの動画サービスを観ています。これだけ通勤時間が長いと、1日1本の映画が観られるんですよ。だから、仮に通勤時間が短くなってしまったら映画をゆっくり観たり、本をじっくり読んだりする時間がなくなってしまうので悲しいですよ」

——通勤時間も有意義な使い方をされていますね。

土生さん「一宮を知らない方には『よく都内まで通ってるね』と感心されます。でも、私自身は全然そんなことは思っていなくて。むしろ、サーフィンしてから出勤できるなんて、パラダイスじゃないですか?だから、いずれ移住の魅力に気づき、長距離通勤をする方も増えるだろうなって思っていましたよ」

——今では、地方からの長距離通勤も一つの選択肢になっていますよね。

土生さん「現に私の生活ぶりを見て、今までに3人の方が一宮に移住されました。なかには、サーフィンが好きな会社の後輩もいます。しかも、その後輩は都内にマンションを持っているにもかかわらず、そこを貸して、一宮で賃貸暮らしをしているんですよ。ゆくゆくは家を建てたいって言ってました」

——それだけ一宮の海に惚れ込んだわけですね?

土生さん「そうですね。もし、都内暮らしだったら、朝5時に一宮の海に入りたかったら、夜中の3時には東京を出ないといけませんからね。今のところは、新しい移住者から『しんどい』よりも『幸せ』という言葉が聞けているので安心です」

■いずれは子どもとサーフィンを

長距離というハンデと引き換えに、充実した日々を送る土生さん。仕事のない余暇には、海山両方の自然に恵まれた一宮ならではのレジャーを楽しんでいるようだ。休日の過ごし方を聞いてみた。

——休日はどのように過ごしていますか?

土生さん「家でじっとしてるのは好きではないので、週末の予定はバシバシ入れています。サーフィンはもちろんのこと、海釣りもよくしますね。ヒラメ、アジ、スズキ、シャコなどが釣れるんですよ。また、山ではバイクで走ったり、タケノコを採ったりと、やりたいことは尽きませんよ。最近は地元の猟師さんからイノシシの肉をもらって食べましたね」

——地元の方とも交流はあるんですか?

土生さん「サーフィンってすぐに仲良くなれるツールでもあるんですよ。相手がサーファーとわかった途端、一気に距離が縮まりますから。さらに一宮は『長生メロン』や『ながいき梨』などの果物が豊富です。そのため、近所に住む農家さんともすぐに仲良くなれました」

——質の高い食材が地域にあって羨ましいです。

土生さん「それも田舎暮らしの魅力です。食材が豊富なので、バーベキューもよく開催しています。特に夏は庭で毎週のようにバーベキュー三昧ですよ。一度この家に遊びに来てくれた方は何度も来てくれますし、移住してきた近所の方とも一緒に楽しんでいます。多い時だと年間400人は来たんじゃないかな?」

——もはやイベント会場じゃないですか。

土生さん「そうですね(笑)。バーベキュー台なんて毎年壊れていましたし、缶を捨てるのがエコじゃないということでビールサーバーも買いましたから。こうやって、みんなでワイワイと楽しめるのは、この環境だから実現できたことですね」

——都内に庭付き一戸建ては、なかなか難しいですもんね。

土生さん「何より、ここなら庭でバーベキューをしていても、煙や騒音の苦情って一回もないんですよ。というのも、この住宅街にはサーフィン好きの移住者が多いんです。そのおかげで、ご近所さんとも良い関係を築けていて、今ではサーフィン以外にもホームパーティーをしたり、どこかへ一緒に出かける仲になれました。休日は必ず誰かしらの家に集まってますね(笑)。『明日はなにしようか』なんて話していると、時間があっという間に過ぎてしまうんですよ」

——共通の趣味がある友人に囲まれた生活、本当に楽しそうです。

土生さん「親の影響でサーフィンを始める子どもも多いですしね。そういえば、以前行われたサーフィンの大会では、ジュニアの部で近所に住む男の子が優勝していましたよ」

——すごい! 土生さんもいつか子どもとサーフィンしたいですか?

土生さん「本人がやりたいと言えば是非、やりたいですね。一応、私もサーフィンの大会で優勝したことがありますから。……正直、移住しているのに都内住みの方に負けたら恥ずかしいじゃないですか?だから意地でも負けないように頑張りました(笑)。まあサーフィンに限らず、釣りでもバイクでもカヌーでも、一緒に子どもと楽しむのは夢ですね」

■人の温かさも一宮の魅力

――多趣味な土生さんですが、移住されてから始められたことはありますか?

土生さん「ないですね。元々の趣味をより、やりやすい環境を求めて移住しましたから。ただ、変化したところはあります。例えば、私は元々アレルギー体質でハウスダストもひどかったんですよ。都内に住んでいた頃なんて、常に目が痒かったほど。でも、一宮は緑も海も近く、空気が綺麗。さらに、食べ物も顔の見える生産者から購入するので、いつからかアレルギーのことが気にならなくなりましたね」

——とても健康的ですね。移住でそこまで変わるとは。

土生さん「また、これだけ普段から自然に囲まれていると、心も穏やかになります。オススメスポットは『洞庭湖』。考え事やリフレッシュしたい時には星を眺めに行くのですが、本当に心が洗われるんですよね」

——見てみたいです。最後に改めて一宮の魅力を教えてください。

土生さん「言わずもがな自然環境は魅力です。ただ、それに負けないくらい一宮に住む方々も素敵なんです。都内に住んでいると、隣人を知らないとかあるじゃないですか?でも、先ほども言ったように私が住むエリアは移住者が多く、助け合いの精神があるんです。先週も自治体が呼びかけた草刈りに、約100人が集まったんですよ」

——とても協力的ですね。

土生さん「子育てをするにあたっても、子どもの年齢が近い家族が多いためコミュケーションが取りやすいんです。以前、子どもが保育所で熱を出して呼び出しがあった際、電車が悪天候で迎えに行けない時がありました。ただでさえ2時間はかかる距離なのにと焦っていたのですが、その時に助けてくれたのが近所のママ友なんです。わざわざ子どもを迎えに行ってくれ、しかもご飯まで食べさせてくれたんですよ。本当に周りには感謝しています」

——それは心強い。地域全体で子どもを育てているような安心感がありますね。

土生さん「近所にこれだけの信頼できる人がいる環境って、なかなかないですよね。『晩飯を作りすぎちゃったから一緒にどう?』とか『醤油ないから貸して!』みたいな、気軽に声がかけられる関係性は間違いなく一宮の魅力だと思います」

――こんなにも恵まれた環境に住んでいたら、都内に戻りたい気持ちもなさそうですね?

土生さん「100%ないです。というか、一度も戻りたいと思ったことはないですね。たしかに、通勤には2時間もかかる田舎ですし、東京から見れば何もない街かもしれません。でも、私にとって、やりたいことが叶えられ、家族や暖かい方々に囲まれた『楽しいこと以外なにもない街』なんです。一宮での暮らしは、毎日が本当に充実している。ただ、やりたいことが多すぎて時間が全然足りないんですよ(笑)」

(取材協力)
土生康弘

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